翌朝


「ユウ、トシくん来たよ」

鏡の前で髪の毛をセットしているとそんなお母さんの声。



「…うん」

鏡の中のわたしの顔はとてつもないくらい不細工だ。

だって、昨日あんなことがあったんだもん。


先輩に告白されて、浮かれて。

トシを怒らせて。

わたしはトシに何を言ってほしくて、

トシにどうしてほしかったのか、夜が明けても答えは出なかった。



「…いってきます」

そんなわたしの小さな声はきっとお母さんには届いていない。

だからって大きな声で叫ぶ気にもならない。



「おはよ」

玄関を開けるといつものようにトシがいて。

声を絞り出す。



「…うん」

トシの返事はそれだけ。


いつもならわたしが自転車を出すのを待ってくれているトシ。


でも今日は背を向け先に走って行ってしまう。


だけどそれについて何も言うつもりはなかった。

だってケンカした時はいつもこうだから。

ケンカをしてもわたしを毎朝呼びに来てくれるのは変わらない。

それが、トシの優しさ。


そしてわたしを待たずに先に言ってしまうのもお互いに気まずいというのが分かっているからで。

それも、トシの優しさなんだ。



自転車にまたがって出てしまうため息。

トシの背中はどんどんと遠くなっていく。