ケータイ小説 野いちご

暇つぶしに恋はいかが!?

私の気持ちなんてわかりませんよ

「財務部に、ですか?」

「そう。悪いけど今日中に持っていって、認印をもらってきてくれないか?」

 ひらひらと今度の企画の予算案を間山先輩が目の前で見せる。チーフが家に来てから数週間が経過し、あの後何回か外で会ったが、二人の関係もデート内容も特に進展はない。

 でもたまに見せるチーフの表情が柔らかかったり、私も上司と部下とか暇つぶしとか、そんなのを忘れて純粋に楽しめる瞬間が増えていって会う度に次の約束が待ち遠しくなっていった。

 そして仕事の方はというと

「それからの手直しはある程度必要だろうけど、大まかな予算はこれで通ると思うから」

 そう言って渡された書類を私は突き返すことは出来なかった。今度、間山先輩と組んで仕切るイベントは、なかなか規模も大きく私にとっては大仕事だ。もちろん間山先輩のフォローがあってこそなのだが、今までにない細かい作業も多く、緊張の連続だった。

 それにしても、まさかここにきて財務部に顔を出すことになるとは。今まで機会がなかっただけでこんなことも十分、予想はできたがいざ実際に赴くとなるとやはりその足取りは重い。

 一連の作業が終わってからで気付けば終業時間間近だ。しかも今日は水曜日なので残っている社員も少ないだろうし、どうか慎二と顔を合わせないことを願いつつ、私は頼まれた書類を持って財務部に足を踏み入れた。

「お疲れ様です」

「あ、宮城さん、久し振り!」

 馴染みの女子社員に声をかけてもらい、挨拶を交わしながらフロアを見渡す。人も疎らで慎二も、その彼女もいないようなので、ひとまず胸を撫で下ろした。

「すみません、企画事業部から今度のイベントの予算案を持ってきたんですけど」

「あ、はいはい。認印ね、ちょっと待ってて」

 どうせ手直しされるのはわかっているが、そこはお役所仕事というかお決まりの流れというか。今までは自分が認印を押す側だったのに、なんとも不思議だ。

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