「思ったんですが、私の手フェチは課長のせいですよ」

 急になにを言い出すか、この女という目で昌磨が自分を見る。

 今日はなんとデートだ。

 いや、勝手に自分で、そう思っているだけだが。

 昌磨が弾く日ではないのに、店に行こうと誘ってくれたのだ。

 仕事中、回覧を持って行ったときに、そっと。

 いや、なんか照れるな、と花音はなんだか笑いが止まらなかった。

「どうした、花音。
 不気味なんだが」

 同じ丸テーブルに座る昌磨がそう言ってくる。

 弾くときは昌磨さん、大抵カウンターの方に居て、一緒に座ったりしてくれないもんな、と思っていると、カルーアミルクを運んできた良が言った。

「なんで、手フェチが昌磨さんのせいなの?」
と。

「いや、だって、私が手にこだわり始めたのって、子供のとき見た情熱の貴公子のせいのような気がするんですよ」

 へー、と笑った良が、
「じゃあ、花音さんって、昔から好きだったんじゃない? 昌磨さんのこと」
と言ってくる。

「ええっ? そうなんですかねっ」