あ、まただ…。
最近同じ夢ばかり見る。
片方のテープがとれてなんて書いてあるかわからないが、張り紙がはってある。
少し汚れた…使い古されたドアの夢。
そのドアを開けないといけない気がして…手を伸ばす。
ドアノブに手が届くとそこで夢は終わってしまう。

その夢を見たあと俺は毎回変な気持ちになる
何か…何か大事なことを忘れてる気がする。

やらないといけない事がある気がする。

いつもそんな事を思うのだ。
今日もまた同じ夢。
だかその日は少し…違った。
「…や…」 何か聞こえてきた。
「けんや…」 誰だ?

「けんや!!」この声聞いたことがある…

「健弥!!いいかげん起きなさい!始業始業式遅れるわよ!!」

あれ? 朝…?
今何時だろ…。時計を見ると"7:21"と書いてある。
「やっべぇっっ」
いつもならとっくに家を出ている時間だ。
制服に着替え家を飛び出し、バス停までダッシュした。
なんとかバスに間に合って、一安心した。
ふと頭に浮かんだのは夢の声の事。
今まではただのドアの夢だったのに、今回は声がした…しかも俺の名前を呼んだ…
初めの声は、俺よりちょっと低い男の声だったような…母さんの声とはだいぶ違ったよなぁ…。
ガタン
いきなり大きな揺れがおき驚いた俺は顔を上げた。
バスはもう学校を通り越して、次のバス停についていた。
「お、降りますっっ」
このバス停なら高校までそう距離はないので歩く事にした。
道の両サイドには桜の木が植えてありトンネルのようになっている。
俺の歩く右側には小川が通っている。
暖かくていい天気だ。
高校が見えてきて、俺はホッとした。
さぁ、あと少しだ。急ごう。
ザワァー
風がふいてきて、桜の花びらが舞った。
「あれ?…ここっ」
キーーーーン
「うっ…」
ここの場所見覚えがあるなぁ、と思ったとたん、耳鳴りと同時に頭が痛くなった…。
「くっぅぅ」
あまりの痛さに俺はその場に座り込んでしまった。
耳鳴りがだんだん薄れていって、何かが聞こえてくる。
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『けんや!!』
『けんやみてごらん!』
「あ!カブトムシだ!!すげえ!すげえ!」
『けんや俺な、この高校受験するんだぁ』
「へーそーなんだぁ がんばってね!!」
『おう』
====
なんだ…これ…
俺はこの場所に来たことがあるのか?
それに俺の名前を読んでた奴はだれだ?
あ、薄っすら顔が見えた気が…
気づいた時にはもう、耳鳴りも頭の痛さも消えていた。
「あ!始業式!!」
8時25分…やばいっあと5分で始業式がはじまってしまう。
俺はダッシュで体育館へ行った。
なんとか間に合い、無事に始業式を終えた。
他の生徒が帰っている中、俺は担任にもっと早く来るように注意を受けた。
「はぁ、初日からやっちまった…」

帰ろうと、廊下を歩いていると
開けてあった窓からまだ冬の寒さが残る冷たい風が入ってきた。
「さむっ」
少し身震いをして、俺はふいに自分の隣にあったドアを見た。
「あ…」
そこにあったのはあのドアだった。
その時何で俺はあのドアだと思ったのだろうか。
張り紙も、汚れ具合も、キズも全部同じだと思った…いや、分かったんだ。
毎日見てるドアだ、俺は自信があった。
俺は手を伸ばしてそのドアを開けようと、ドアノブに手をおいた。
ドクンドクン
心臓の音が速くなる
キィィィ
サビた音が誰もいない廊下に響く。
ドアの中は物置だった。
「はぁーー」
一気に緊張していた糸が緩んだかのように俺はその場にしゃがみこんだ。
このドアを開けたら何かある気がして、怖いようなでもこれまでに感じたことのないようなドキドキした気持ちになっていた。
俺も、そろそろ帰ろう。
キィーン
立ち上がろうとしたとたんまた耳鳴りがした
そのまま、その場に座り込んでしまう。
パッと上を見上げると棚と棚の隙間に取っ手のようなものがあった。
その取っ手を、右右左右とゲームの隠し扉を開けるかのように取っ手を倒していく。そしてそのまま、奥に押し込んだ。
カチャン
小さな音がしてドアが開いた。
棚をスライドさせて、その奥にあるドアを開け中に入った。
そこには短い廊下のようなものがあった。
そして、またドアがあった。
そのドアを開けた。
「わっ」
急に明るくなり目がくらむ。
ガシャーン
ガラスが割れる音がして、俺は目を開ける。
目の前には、目を大きく開けてこっちを見ている男がいた。
足元にはおぼんと割れたコップらしきものが散乱していた。
「えっ…。ぎゃ、ゎ、ぎゃぁぁぁぁぁっっ」
まるで幽霊でも見たかのようにいきなり叫びだす男。
その声を聞いて俺の目の前に一人の男がきた。
「どぉぉぉしたぁぁ!紗生!!」
「勇樹っっ知らない人が…」
「はぁ?お前何言って…えっ?ええ?」
…なんなんだ
「誰だお前!!」
「えっ…」
「どっから入ってきやがっ…えっ!?まさかおまえ、あのドアから入ってきたのか!?」
その男ら俺の後ろにあるドアを指さした。
「え、は、はい」
「ドア閉めてきたか??」
「えっ?あ…」
「閉めてくるから、そこで待ってろよ!!」
男はダッシュで出て行ってしまった。
そして少ししてからその男が帰ってくると、
「こっちこい」
帰ってきた男に違う部屋に連れて行かれた。
そこには何人かの人がいた。
「真さん!こいつです、さっき言ったヤツ」
"真さん"と呼ばれる黒髪の長身の男が俺の前にくる。
背たけぇ…
「おい。名前は」
低く落ち着いたどこか優しい感じの声だった。
「あ、阿比留健弥(あびるけんや)ですっ」
「えっ」
そこにいた人たちがみんな目を見開いて俺をみている。
黒髪の男は、俺の肩をガシっと掴んだ。
さっきまでの落ち着いた声ではなく強い口調で俺に言った。
「お前、兄貴はいるか!!?!?」
「えっ?い、いませんけど…」
肩をつかむ男の力が強くなる
「いっっ」
俺の声を聞いてそこにいた人たちが止めに入る。
「真さん!!」
「真さん!離してっ」
だが、その声は男に届かないようだった。
男の声がでかくなる。
「いるはずだ!!阿比留なんて珍しい名前はそういない!!いるんだろ!?な?」
なにを言っているんだ…この人は…
俺はただ怖くて声が出せなかった。
「真やめろ。」
大きな、だけど落ち着いた静かな声が部屋に響いた。
そこでやっと、男は我にかえって俺に謝った。
「わ、わるい…」
「い、いえっ」
「真少し冷静になれ。君はここに座ってくれ。」
声のヌシはメガネをかけた綺麗な顔立ちの男だった。
注意をうけた黒髪の男はああとだけ言うと俺の斜め前の席に座った。

こ、怖かったぁぁぁっっ
ちびってないか心配になるレベルだった。
「あ、言いそびれたな。俺の名前は山崎真(やまざきしん)だ。さっきは悪かったな」
黒髪の男…真は申し訳なさそうな顔で俺を見る
「だ「しぃぃぃぃぃん!!!!」
大丈夫ですよっと言おうとした俺の声をさえぎったのはポニーテールをした女だった。
「しょう!?お前は相変わらず騒がしいな」
真が呆れたように言うと
「しん!聞け!源さんが1年を連れてきたぞ!!」
女はテンションがあがっているようだった。
俺がぼーっとしてるとその女が俺に気がついた。
「あれ?君…誰かに似てるねぇ」
女が俺をまじまじ見てくる。その女は綺麗な顔立ちで少し緊張した。
ガチャ
俺が入ってきた部屋とは別のドアが開いておじさんがが入ってきた。 
「おい、1年を連れてきたぞぃ」
年をとった男が真の方を向いていった
「源さん。ありがとうございます。」
真が礼をいうと
「ん、じゃー1年諸君入りなさい」
源の声につられて男女数人が部屋に入ってきた。
俺と同じ新品の制服を着た1年生だ。
「さぁ、自己紹介を始めようか」