「よくここまで詳しく調べたな。どうやったん?」

「どうって……ボーッと、突っ立って見てたら、勝手に張り切って手の内見せてくれてたで。」


最初は上手い選手に注目したけど、そのうち気づいた。

キャプテンを注視し続けると、練習内容を変更までしていいところを見せようとしてくれることに。


中には、わざわざ話しかけにくる選手もいたので、遠慮なく詳細まで聞いた。

サッカーのルールも用語もまだよくわかってない私を他校の偵察と思うはずもなく、情報をみんな気持ちよく垂れ流してくれた。

メモや写真を取らないのも、安心感を与えたかもしれない。


「やたら細かい情報が多いとこは、ちゃらい部員に聞いたから話半分かな。また気が向いたら確認してくる。」


笑顔でそう言ったのに、頼之さんは慌てて

「あかん!」

と、止めた。


何で?

「……余計なことやった?」


てっきり喜んでもらえると思ってた。

私は自分でも驚くほど、しょんぼりしていた。

また拒絶された、って……打たれ弱くなったのかな。


しゅんとした私に頼之さんは、苦笑した。

「違うねん。気持ちはめっちゃうれしいし、助かるし、ありがたいと思ってる。でも、あおいを危険な目に遭わせとーないから、独りでは行かんとって。」


危険?

「フェンス越しに見たり話したりするだけやで。危険ある?」


頼之さんは、ため息をついて見せた。

「大有りや。全国でサッカー部が何件も不祥事起こしとるん知らんか?やりたい盛りの野獣の群れに、よぉ自分からのこのこ近づくわ!」


「そんな大袈裟な。」

つい笑ってしまった私に、頼之さんは肩をすくめた。


「マジで吉川が気の毒過ぎる。」

彩瀬のことを言わると、何も言えなくなった。



「あおいに頼み事があるってゆーとったん、覚えてる?」

しばらくしてから頼之さんが言った。


「五目並べの時?」

首をかしげながらそう聞き返すと、頼之さんは笑ってうなずいた。


「覚えてるくせに今まで姿見せんかったんか。イケズなやっちゃ。」

「だって……」


……彩瀬にかまってもらえないんだもん。

飲み込んだ言葉も、頼之さんには伝わってるらしい。


「吉川と仲直りするまで、俺に会うつもりなかった?下剋上のチャンスやとでも俺が思うと?」


私は慌てて首を横に振った。

「頼之さんがそんな小狡いとは思とらんよ。むしろ、自分が狡く甘えてしまいそうで。」

じわっと涙がまた浮かんだ。


頼之さんは私から自分のハンカチを奪い返して、私の涙を拭いてくれた。


「あおいになら、なんぼ甘えられてもいいから、遠慮するな。囲碁でも連珠でも、暇つぶしに付き合ってやるわ。」