二人が来た
二週間後の休日
私は駅ナカにある
カフェで雪穂さんと
待ち合わせをしていた。

「梓ちゃん」

先に来ていた雪穂さんが
私を見つけて声をかけてくれた。

『遅れてすみません』

予定時刻よりは早かったものの
年上の人を待たせてしまったのは
いただけない……

「いいのよ、まだ十五分もあるんだから」

中学校の先生だと聞いていたけど
男子に人気だろうなぁ(笑)

「私に訊きたいことって
雫のことよね……?」

『はい……』

本当はこんな風に
雪穂さんにこそこそ聞くより
雫に直接聞いた方がいいと
わかっていても、本人に
聞くのは憚られた。

『あの時の雪穂さんの言葉が
頭の中で引っかかってしま』

【また愛せるようになって】

雪穂さんは確かにそう言った。

「梓ちゃんだから話すけどね、
雫は前の彼女とは嫌な別れかたをしたの。
原因は彼女の浮気でしかも、
浮気相手と結婚してしまったの」

はぁ~!? なにそれ❢❢

雫みたいな優しくて格好いい人と
付き合っていながら二股かけて
しまいには浮気相手と結婚!?

あり得ない……

人を馬鹿にするにも程がある。

「梓ちゃん」

一人で内心イライラしていたら
雪穂さんに呼ばれた。

『すみません、
自分の世界に入ってました(苦笑)』

「大丈夫よ(笑)
それより、今入って来た
男女見えるかしら?」

雪穂さんの指す方を見ると
少し派手な男女がいた。

『はい』

「あれが雫を裏切った女と浮気相手よ」

今日二度目の吃驚だ。

雪穂さんに気付いたらしい
雫の元彼女はこっちに歩いてきた。

「お久しぶりですね」

この人の神経はどうなってんだろうか……

ふった相手の姉に
普通は見つけても
話しかけないだろう……

雪穂さんはあからさまに
【げっ】という顔をした。

「そっちの若い子は誰ですか?」

私の存在に気付いたらしい
元彼女は雪穂さんに
訊ねるが返事はない。

恐らく、いや、確実に
話したくないのだとわかる。

『初めまして、
雫の彼女の早見梓です』

ひきつった笑顔に
なっているのは
自分でもわかっていたけど
ニコニコしながら言った。

私の自己紹介に彼女は
目を見開いている。

驚くのも無理ない。

私と雫の年の差は“十四歳”

彼女からした“小娘”という歳だろう。

見た目はまぁまぁ綺麗だ。

中身は最悪だけど。

まさか、このタイミングで
元彼女と遭遇するとは
思いもしていなかった。

偶然なのか運命なのか……

本人を目の前にしたら
イライラが再燃してきた。

だけど、此処で騒ぎを
起こすわけにはいかない。

しかも、私から喚いては不利だ。

小さく深呼吸をして
私は雪穂さんの手を掴み
店を出ることにした。

珈琲もココアも家で飲める。

『雪穂さん、帰りましょう』

オリオン荘でも雫のマンションでも
どっちでもいいから帰りたかった。

「待ちなさいよ」

出入口に向け歩いていた足を止める。

『何か?』

無意識に声のトーンが低くなった。

何か言いたげではあるが
呼び止めた後からは何も言わない。

『用がないなら帰ります』

それだけ告げ、
お会計して店を出た。

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雪穂さんと向かったのは
マンションの方だった。

チャイムを鳴らしてみる。

「はい、どちらさま?」

『私だよ』

声で気付いてくれたのか
玄関を開けてくれた。

「梓、姉貴までどうした?」

「まぁ、入れなさい」

流石[姉]。

雫もお姉さんには逆らえないみたい(笑)

「わかったよ」

久しぶりに来た雫のマンション。

「さっき、
あんたの元彼女と会ったわよ」

雪穂さん、ストレート。

「図太い神経してたわ」

それは雪穂さんに
激しく同意する。

「待て、何処で会ったんだよ?」

「駅ナカのカフェ。
今日は梓ちゃんと約束してて
二人で話してたら私に声かけてきた」

雪穂さんは眉間にシワを寄せ
さっきと同じように
心底嫌そうな表情(かお)をした(苦笑)

「まぁ、梓ちゃんが
今の彼女は自分だって
宣戦布告したのが面白かったけどね」

あ、いや、さっきは
勢い任せだっただけで……

「そうか、嬉しいな」

雫が私をギュッと抱き締めてくれた。

抱き締められると安心する。

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夕方になり、私達は
雫のマンションを出た。

雪穂さんとは途中で別れ
私はオリオン荘に帰った。