先程とは違う緊張感を持って、凛子は社長と向かい合っていた。
「社長、お訊きしたいことがあります。
昔、あのエレベーターが地震で止まって。
男の子が救急車で運ばれましたね」
「ああ」
「搬送先で亡くなったんですね?」
森田は運ばれたとしか言わなかったが、凛子は確信していた。
「すぐにじゃないがね。
心臓が悪かったんだ。
あのとき、体調を崩して、そのあと、一ヶ月は生きていたらしいが」
……可愛い子だったよ、と社長は窓の方を見ながら、ぽつりと言った。
「エレベーターに居る少年の霊が蒼汰さんにとり憑いています」
そう言うと、社長は目を見開いた。
弥はエレベーターの隅にしゃがむその姿を見、自分はなんとなく、あの隅が気になり。
無意識のうちに、何度も見ていた。
社長は溜息をついて言う。
「あの子があんなことになったのは、蒼汰のせいじゃない。
だが、蒼汰は自分が苦しむその少年になにもしてやれなかったことをずっと気にしていて。
彼がどうなったのか、何度も訊いてきた。
元気になったと私は言ったが、あれはああ見えて聡いからわかっていただろうね。
見舞いにも行かせなかったから。
いつの間にかそのことを口にしなくなったが、まだ覚えていたんだろうか?」