6月に入ったが私は未だ泳げずにいた。
筋トレや朝練のお蔭で体力は戻りつつあったが、肝心な泳ぎは全然ダメだった。
相変わらず15メートル付近になると、昔の事を思い出してしまい溺れてしまう。

部活が始まって数十分。
私は唖然とした顔でプールを見ていた。


「真希ちゃん?どうしたの?」


そんな私に先輩は声を掛けてくれる。
でも私はプールから目を離す事が出来なかった。


「高岡くんの泳ぎがあまりにも凄すぎて……」


目を逸らさずに言えば先輩は納得した様に笑った。


「そうか。真希ちゃんは初めて見るもんな」

「え?」

「アイツ大会前はいつもこうなんだよ。
やけに気合いが入ってて、見てて暑苦しいだろ?」


笑いながら言う先輩。でもその瞳は凄く優しかった。


「先輩と高岡くんは……」


やけに親しそうな言葉に私は首を傾げながら先輩を見る。


「あぁ、中学の時の後輩。
あいつの泳ぎはどんどん進化してて先輩としては鼻が高いよ」


進化してて、か。
高岡くんはずっと水泳と向き合っていたんだ。
だから泳ぎが上手なのは当然と言えば当然か。
でも努力してきたのだろうな。


「まぁライバルとしてはキツイけど」

「先輩だって凄い泳ぎしてるじゃないですか」

「高岡には負けるよ。
真希ちゃんも早く昔の泳ぎが出来るといいね」

「……はい」


先輩はポンと私の背中を叩くとプールへと戻って行った。

ココにいる人たちは皆優しい。
泳げない私に白い目を向ける事も無く純粋に応援してくれている。

だけど、私は応援には応えられないでいた。
全然進歩しない私。
体が気持ちについていかなくて、変な焦りが私を襲っていた。