気になっている娘に「こじらせている」と言われた、俺のスペックをまずは紹介させてくれ。

 相良晃人、二十三歳。国立大学卒、地方銀行に入行して二年目のフレッシュだ。
 身長百八十二センチ、体重六十七キロ。
 目つきが鋭くて冷たい感じがするからと、上司の勧めで度の入っていない眼鏡をかけている。対人効果は定かではないが、アドバイスを素直に実践することで、少なくとも上司からのポイントは稼げるから良しとしている。

 我ながら、性格に難はあると思う。が――

“私は、市原さんよりも相良さんの方が、放って置いたら駄目な人だと思いますけど。口は悪いし愛想はないし、掴みどころのないウナギみたいだし。放っといたら暗がりに潜りこんで、一人でねじれて捻くれちゃうんですよね。こじらせてますよね、結構”

 そこまでか?
 ウナギに例えられたのは、人生初だ。

 市原というのは俺の手のかかる幼馴染みで、先天的に心臓に欠陥があって、二度の大きな手術をしている。
 今じゃ女を妊娠させるほど健康になっているが、悠の周囲は常に無意識にあいつの死を意識して関わってきた。衝動的な感情を押さえつけながら、悠が少しでも幸せな人生を送れるように。
 それは俺の願いでもあったから。



「アキト。聞いて聞いて! 実家から電話あって、例の手紙ついに届いたって。りのちゃんからの手紙。だから俺、明日そっち帰るわ。アキトにも会いてえし」

『十年後』の十月の第三日曜日、初恋の女の子に再会するのだと、悠はずっと言っていた。
 その日を悠と同じように心待ちにして、悠の初恋の成就を願っていたのは、五年前までの話だ。今はもう状況が違う。