「―――ただいま」


何も考えられない精神状態のまま家に帰ると、父親が居間でテレビを観ながらカップラーメンを食べていた。


惣菜屋を営んでいたからか、父親はインスタント食品を毛嫌いし、私が食べるのも嫌がってた。なのに、その父親がカップラーメンを食べている。


「どうしたの?そんなの食べて……」

「んっ?これか?実はな、一度食べてみたいと思ってたんだ。いや~思った以上に旨いな!驚いたよ」


そう言って笑う父親の隣にいつも居るママの姿がない。


「ママは?出掛けてるの?」


私の一言に父親の箸を持つ手が止まり、ゆっくり顔を上げたと思ったら、小さな声で「……出て行ったよ」と呟く。


「出て行った?ママが出て行ったの?どうして?」

「う……ん、まぁ、あれだ。一輝を信じる信じないで喧嘩になってな……」

「うそ……」


今朝の険悪なムードは気になっていた。でも、まさかママが出て行くなんて思ってもいなかった。


「ちょっと、呑気にカップラーメン食べてる場合じゃないでしょ?ママを迎えに行かなきゃ……」


父親を立たせようと腕を引っ張るが、父親は笑いながら私の手を振り払う。


「もういいんだよ」

「もういいって……何がいいのよ?全然良くないでしょ?」

「ママは頑なに一輝を信じるって譲らない。ワシは、蛍子や泰造を裏切った一輝が許せない。意見が違う者同士が一緒に居ても上手くいかないさ……」

「……父さん」