黒のスラックスに黒のブレザー姿の香具山紫子は
約束の10分前にシティホテルのロビーについた
あたりを見渡すと既に、小鳥遊 練無は
受付を済ませたようで
ルームキーを片手に
ソファで考えごとをしているようだ
「わあ、珍しい、
しこさんがしっかりお化粧してるう」
呑気な声で振り向いた練無が言った
「珍しいのは、キミやないの?
なしてスーツなんて着てはるの?」
小鳥遊 練無は意外なことに紺色のスーツに身をつつんでいた
「スーツ着たのなんて、大学の卒業式以来だよ」
「うちは始めてみたわ」
「別に、高いレストランに入るわけじゃないよ
食事はルームサービスでいいよね?」
練無は立ち上がり、紫子にルームキーを見せつけた
「だから、なんでスーツなん?」
「僕は意外と形から入るタイプなんだ」
練無は紫子の手を取り、自分の指を絡めた
「さあ、部屋に行こうか、しこさん?」
紫子は無言で頷くと
練無が強く彼女の手を握りしめた
その強さに紫子は高鳴る鼓動を感じた