優美side

先生の話を私はただ黙って聞いていた。

お母さんは呼び出されて帰っちゃったし、せっかく都合をつけてもらったのに申し訳ない。

話があると言われた以上、無下に断ることなどできない。

だから仕方なく聞いていた。

でもこれでどうして私に構うのかがわかった気がした。

同じ大学の医学部志望で、両親も医者。

そして先生が勘違いしているだけだが、心から笑っていない。

ただ先生は私とその人を重ねているだけだ。

私は私。

その人じゃない。

だから私はその人みたいに自ら死んだりしない。

私は大丈夫。

そう思って聞いていた。

「麻生?分かって欲しい。俺はお前が心配なんだ。麻生も俺に話してくれないか?たくさんの痣のわけを…。今苦しんでいることを…」

先生の瞳は至って真剣だった。

だけど私はそんなもので騙されたりなどしない。

所詮、先生には何もできない。

教師が生徒の家庭に干渉するなんて言語道断。

話したところで何も変わらない。

私は大学に合格できれば、一人暮らしの予定だし、この殴られる生活もそれまでの辛抱だ。

だから誰かに話す必要はない。