家庭の中に父親という存在がいないのを、いつの間にか自然に受け入れていた。
 母子家庭という環境の中で、俺を学校へ行かせるために体を崩しながらも、働き続けた母。
 少しでも生活資金の一部になればと、中学生の俺は新聞配達のバイトを始めた。
 生きていくためだと思えば、睡眠時間が削られようが頑張れた。
 それが―ある日突然、母は倒れそのまま天へと召された。
 あっけない最後。

 母の葬儀で、俺の前に高そうな服を身にまとった一人の男が現われた。
 そいつは、俺を見るとまず最初にこういった。

「あの女の息子の割には器量がいい。私に似たんだな」

 信じたくなかった。
 突然現われた男が、俺を自分の息子だという。

「一度だけ遊びで寝た女だった。まさかその一度で、妊娠してしまうとは思わなかったが……あいつは、お前の存在を私に教えなかったのだな」

 一度だけ遊びで――?
 そんな愛のない交わりで俺は生まれたのか――?

 ショックで頭の中が真っ白になる。

「お前は成績優秀、運動も得意だと聞いた。まさに私の息子に相応しい」

 お前の息子? 
 そんなふうに俺を呼ぶな! 俺の親は母さん一人だ‼

「私の元へ来い。お前を私の息子として向かえてやろう」

 断る!
 俺はお前の元へなんか行かない‼
 これからは俺一人で生きていく。

「さぁ、来るんだ。和己」

 俺は行かない!
 離せ……‼