「ねぇ。 吉野さんっていう女の子に会わなかった?? 僕を病院に連れて来てくれたコなんだけど」

 そんな父親に話しかけると、父が更に顔を歪めた。

 「会ったよ。 良かったよ。 お前たち、付き合ってないんだってな。 あの子から聞いた。 あの子と親しくするのはもうやめなさい」

 「・・・は?? 何勝手な事言ってんの?? 僕の友達関係に首を突っ込むのは、普通にやり過ぎ。 吉野さんは僕を助けてくれた人なのに」

 父親が、吉野さんにまでそんな顔を向けたのかと思うと、怒りが込み上げる。

 「お前、あの子がどんな子か知ってるのか??」

 「どんな子って・・・」

 吉野さんは、アリを踏み殺す残酷なコ。 僕にバスケ部に入る事を勧めてくれた気が利くコ。 僕を救ってくれた恩人。 吉野さんは・・・。 吉野さんは・・・。

 僕は、吉野さんを箇条書きにしか出来ない。 僕は、吉野さんの事を知らない。