ピンポーン…

マンションの一室の呼び鈴を鳴らした。

ガチャンとドアノブが回りドアが開いた。

「はい…どちらさま?」

えっ…

出てきたのは、40代ぐらいの女性

「…あの…、こちらは新庄さんのお宅ですか?」

「違いますけど…」

辺りを見回しもう一度部屋を確認する。

「……ここに新庄さんという男性が先月から住んでいるはずなんです」

女性は、不思議な表情で

「先週ここに引っ越してきたからわからないわ。前に住んでいた方かしら?」

そんなはずない。
一緒に部屋を見に来た時は空室だったもの。

青ざめているだろう私に、彼女は何かを感じたらしい。

「何かの間違いかもしれないわね。不動産会社に行ってみたらどうかしら⁈」

「………はい。失礼しました」

私は、マンションを出てすぐに電話をかけた。

「只今、こちらの電話番号は使われていません……」

電話の向こうで残酷なメッセージが流れていく。

3日前まで繋がっていたはずの彼の携帯なのに…

そんなはずない…

何かの間違いだと何度もかけ直すのに電話の向こうは同じ言葉を何度も吐く。

彼と訪れた不動産会社に行けば、あの部屋は新庄という名前で契約されていないとのこと。


新庄 司 28才

彼と最初の出会ったのは、仕事の帰りに駅前で見ず知らずの若い男と肩がぶつかり、からまれて困っていた時だった。

「イタタタ……お姉さん、肩痛いんだけど、どうしてくれるの⁈」

「…すみません…でも、肩大丈夫ですよね」

「はぁっ、見てわからないの⁈あー痛い」

わざとらしく肩をかばう男。

「……それならお医者さんへ」

「そんなことじゃないんだよね。俺と楽しいことして労ってよ」

はぁっ⁈

男の腕が私の肩を背後から抱き寄せる。

「ちよっと…離れてください。困ります」

男の胸を押すがビクともしないし、道行く人々は見て見ぬフリ。

「そこのお兄さん。彼女に何してるの⁈」

別の男性の声がしたと同時に肩にあった手が無くなり体が解放された。

「痛いだろうが…離せ」

男の胸を捻り、背丈が180近くある男性は上から睨みつけている。

「離してもいいが、彼女に対しての言いがかりはやめてくれるのかなぁ⁈」

ぐいっとと更に腕を捻り込む。

痛さに顔を歪め頷く男を確認すると手を離し男の背をポンと押し追い払ってくれた。

「……あ、ありがとうございます。助かりました」