その頃、当のジョルジュは例の酒場にいた。周りを他の傭兵達に囲まれて。
「何だ、その顔は? お前、あのお嬢ちゃんとの賭けに負けたんだろう?」
「………」
 黙ってうつむくままのジョルジュに、男の一人がにじり寄った。
「負けたからには、俺達みんなに頭を下げろよな!」
「フン!」
 だが、うつむいたまま、ジョルジュは鼻で笑い、男達はムッとした表情で彼に詰め寄った。
「お前、まだ……!」
「謝ってやるよ! 俺が悪うございました、ってね」
「全然誠意がこもってないぞ!」
 彼を囲んでいた男の一人が詰め寄ると、彼は顔を上げて彼らを睨みつけた。
「そりゃそうだろ。いい大人が揃いも揃って、あんな女の子の賭けを頼みにしてんだからな!」
「てめぇ!」
 そのうちの一人が流石に腹にすえかねたのか、そう言ってジョルジュの首を掴むと、男達の間を頭一つ突き抜けているマルクが割って入り、止めた。
「まぁまぁ。でも、今のは、お前が悪いぞ、ジョルジュ」
「けっ!」
 そう言って、男の手から弟の首を解放しても、彼は横を向いた。
「事実を言っただけだぜ! 大体、そんなに賭けで俺を謝らせたいっていうんなら、自分で俺に挑めっての! あんな女の子に無茶なんかさせないでよ!」
「……やっぱり、それか」
 その言葉に、それまでジョルジュを取り囲んでいた男達も一斉にマルクを見た。
「何かあったのか? バートが担ぎ込まれてきたっていうから、あのお嬢ちゃんを庇ってのことだってのは分かったが……」
 すると、マルクは少し困った表情で頷いた。
「ええ、そうなんです。ジョルジュが矢で馬を狙い、あの子は落馬したんですが、それでも何とか無事に着地し、バートが庇ったんです。それがマズかったようで……」
 そう言いかけると、マルクはチラリとジョルジュを見た。
「まさか、それで、わざとバートを狙って……」
 取り囲んでいた男の一人がそう言いかけると、ジョルジュは叫んだ。
「しねぇよ!」
「いや、結果的にはそうなったぞ、ジョルジュ。バートが彼女を庇ったんだからな」
「だけど……」
「あれは、お前が悪い。勝負がついた後まで、嫉妬にかられて、バートを狙ったんだからな」
 その言葉に、ジョルジュは顔を真っ赤にして、むこうを向いた。
「そんなんじゃねぇ……。そうじゃなくて、あれは……」
 彼はそう言うと、口をつぐんだ。