華菜side
──ガタンガタン……
「次は……駅…駅……」
通勤、通学ラッシュの電車の中、幸い座れた座席に揺られて少し眠ってしまった私は、次の駅を知らせる駅員さんのダミ声に目が覚めた。
「ん………」
寝ちゃってた……。
今どこだろ…?
走行中の電車の中、疑問を抱きながら、私はいつも見る座席に目を向けた。
いた……!
まだ春先で肌寒い季節なので、私と違う制服のジャケットを着ていて、それでもって嫌な気がしない上手な気崩し方をしている彼。
サクラヨウくん。
学校がちがう彼との出会いは、
前に1度、彼が電車の定期をホームに落としてしまったときがあった。
私はそれを見て、あわてて届けようとして。
本人か、確認するときのために氏名を見たら、
そこには、カタカナで、"サクラヨウ"と書かれてあった。
彼に追いつき、
「サクラヨウさんですか?定期落としましたよ」
と声をかけた。
そのとき、私は彼に、ひとめぼれ、と言うものをした。
恋なんてって思ってた私。
ひとめぼれなんてあり得ないって思ってたのに。
とっても爽やかで、優しそうで、でもどこか男らしさを感じるような。
「ありがとう」
とてもじゃないけど、高校生には、見えなかった。
その時私は、固まってしまって、「いえ」としかいえなかった。
毎日、同じ時間で、同じ電車の車両に乗っている彼。
何かこだわりがあるのかはわからないけど、私が見る限り、必ずこの車両に乗っている。
そのことにきづいたのは、ひとめぼれをして、彼のことを目で追うようになってからのことだった。
気持ち悪いかもしれないけど、駅につくまでの短い時間が、私にとって幸せの時間、だったりする。
「次は……駅…駅……」
降りる予定の駅名が流れたので、彼を見るのは終わりにした。