汗ばんだ彼女の黒い髪に手を伸ばしたとたん、
「――もう帰るわ」

彼女は躰を起こした。

「ダメ」

そう言って彼は彼女を引き寄せると、自分の腕の中に収めた。

「朝まで俺と過ごす約束だっただろ?」

彼女は両手で彼の胸を押すと、
「そんな約束をした覚えなんてないわ」

腕の中から逃げ出した。

――今日も、ダメだった…。

彼女はじゅうたんのうえに散らばった服を全て身につけると、
「また明日、会社で」

ベッドのうえで横になっている彼に背中を見せた。

バタンと、ドアが閉まった音が部屋に大きく響いた。