「……割れた。今、全然見えてへん」


「えー。マジでー? ……でも、ナオがメガネかけてないのって久しぶりやなぁ。その方がいいんちゃう? かっこイイやん」



お前は……。

なんで、そういうことを簡単に言うかなぁ。

顔が赤く染まりそうになるのを、必死に抑えた。



そんなオレの様子なんてまるで気付かないのか、彼女はマイペースに話し続ける。


「ねぇねぇ! 覚えてる? この人、小学6年の時に転校してった浅野君! わたしの事覚えてくれてて、声かけてくれてん」


彼女とさっきまで話し込んでいたらしい男は、オレの方をチラリと見て、軽く会釈をする。


『オマエ、ダレ?』


いかにも、そんな表情で。

オレもオマエなんて覚えてないんですけど。


男同士の気まずい空気なんて気にする様子もなく、彼女は無邪気な笑顔を振りまく。


「久しぶりの再会やしさ。今から、お茶でもしよーって、しゃべっててん。ナオも行かへん?」


「あー。オレはええわ。これから部活見学したかったし。じゃーなー」


浅野ってヤツの『空気を読めよ』って表情に、ムッとしながらそう答えた。

いつも愛用しているヘッドフォンを耳にあてると、急ぎ足でその場を離れた。


彼女がオレの知らない男と話す声をこれ以上耳に入れたくなかったんだ。