微睡みの中で感じたいい香りにまぶたを開く。
 部屋の窓、カーテンの隙間からのぞく光が朝と好天を知らせ、ベッドで身じろげば人の気配を感じた私。
 部屋の入り口側へと視線を向ければ。

「いつまで寝てるんだい!」

 仁王立ちした母から拳骨をプレゼントされた。


***


 海に囲まれた国、セルペンテ国の中心に位置するクオーレ地区。中心地区だけあって昼も夜も賑わいのある場所に小さな料理屋がある。
 名前はソレド。そのお店は私の実家を兼ねている――。

「いらっしゃいませ!」

 来客を知らせるベルの軽快な音に私は笑顔で振り向いた。
 体格のいい年配の男性が日に焼けた顔に笑みを浮かべて返してくれる。

「カルちゃん、いつもの一つ!」

「かしこまりました。店長ー! 焼き肉ランチ一つお願いします!」

 カウンターの奥にあるキッチンに向けて声をあげれば、「はいよ!」と勢いのいい返事が返ってきた。
 席へと案内して水を提供すれば、男性は一気に半分ほど飲んで店内を見回してまた私を見て笑う。

「今日も繁盛でよかったな」

「はい。おかげさまで」

 人好きのする笑顔と言葉に私は嬉しくなって、減った水がいっぱいになるようにコップに水を追加した。

「お、サービスいいなー」

「サービスだなんて、言って下さればお入れしますよ」

「そうかそうか! 小さかったカルちゃんもこんなに大きくなって、そりゃあオレも年取るもんだ!」

「お父さんが二人いるみたいで私は嬉しいです」

 近所に住んでいるおじさんには小さい頃からお世話になっている。
 王様の側近に近いお役目をいただき、王宮で働いている父は不在がち。そのため、この人は第二の父親のような大事な人だと思っている。