太陽と空がまだあまり馴染まない頃、ユリはいちじく畑の隣をるんるんとあるいています。
「アダチ」
透き通る低音の心地いい声がユリにかかります。
「……あ、ショウタロウさん」
ユリは振り返り、少し目を細めます。
「僕も、一緒に学校にいってもいいかい?」
ショウタロウと呼ばれたのは学生服の良く似合う、背の高い切れ長の目をした男子学生のようです。
「もちろん」
ユリは心なしか嬉しそうです。
「アダチ、今日は早いじゃないか。何かあるのかい?」
ショウタロウはユリの横に並び顔を覗き込むようにして話します。
「いえ、今日は気分です」
ユリはショウタロウを見上げ笑顔で答えます。
「そうか、朝寝坊の得意なアダチには考えられないことだな」
ショウタロウが少し意地悪そうな顔をしてわざとユリをちょろっ見下げると。
「なんてこと……」
ユリは恥ずかしそうにちらちらショウタロウを見上げ口を尖らせます。
「はは。冗談さ」
ショウタロウはニコッと笑い前を向きなおす。
「そうやっていつも、ショウタロウさんはわたしを小馬鹿にするんですもん……」
ユリはこしょこしょっと小声でうつむきながら呟きました。
「まぁまぁ、許したまえユリさん」
ショウタロウは口の端を少しだけ釣り上げて呟きました。
「……しょうがないですね」
ユリは少し嬉しそうです。