あやめが家に帰ると、

お肉を焼くいい匂いが漂っていた。



「お帰り!今夜はチーズハンバーグよ!」



会社から帰ったばかりのお母さんが、

ブラウスを腕まくりして、

フライパンをジュージュー言わせている。


それに、元気なく「うん…」と、

答えただけで、顔と手を洗ってテーブルについた。


TVの電源を入れ、

いつも見ているお笑いタレントのクイズ番組にする。

でも、ぜんぜん笑えなくて、チャンネルをくるくる変えた。

お母さんが天気予報をよく気にするから、

ニュース番組にして、リモコンを手放した。



「公園のともだちは、いつ家につれてくる?

お母さん、おいしいスイーツ買ってきてあげるから」


トロッとチーズのたれるハンバーグをほおばりながら、

お母さんは聞いた。


「わかんない…。

ごちそうさま…」


あやめは、一口食べただけで、

席を離れた。



「あやめ?もう食べないの?」



返事をする気力もなく、

ふすまを閉めて、隣の部屋に行った。

勉強机に、顔をうずめて座る。


「もう、ともだちじゃないもの…」


聞こえないくらいの小声で言った。



「せっかく、あやめの好きなハンバーグ作ったのに…。

ま、いっか、明日のお弁当にもってこ!」


後始末を始めるお母さん。



TVからは次のニュースが流れてきた。