「あれ」

12月のとある昼間

回診を終えて医局に戻ったしるふは、隣の席が空だったことに足を止める

一緒に回診に出て、途中までその姿は視界の端をちらつき、

あるいは聴覚を刺激していたというのに

「医局長、黒崎先生知りません?」

「ああ、黒崎先生ならさっき小児科の子供たちに連れて行かれたわよ」

「小児科の…?」

ああ、そうかもうそんな季節だものな

合点、しるふはこくこくと頷く

「背高いからねー、黒崎先生は」

「ああ、確かに」

なんて神宮寺笑いあったけれど、あの2メートル以上もあるモミの木は、

いくら海斗が背伸びしたって届かない

「じゃあ、外来診察終わったら覗きに行ってみようかな」

聴診器片手に再び上ってきた階段を下りる