そうだ、外に連れ出せばこうなることは予想するに容易いはずなのに。
すっかり忘れていた。それもこれも普段からクソガキすぎるこいつが悪い。


日曜日。
私とクソガキは駅前に来ている。
外に連れていってやるといった過去の私をぶん殴りたい。それくらい、後悔している。



チラリと横を歩くクソガキを見る。
私より頭一つ高い身長。
すらりとした体。
長い手足。
翡翠色の瞳にダークブラウンの少し癖のある髪。
芸術品かと見紛う奇跡的な顔の造り。


つまり横にいるこいつは厭味なくらいイケメンなんだ。


老若男女、カラスでさえも振り向く。
後ろにはすでに追っかけのような集団が、殺意のこもった目で私をにらんでいるからさっきから肩が凝ってしょうがない。




ああ、何で私がこんな目に。



横にいるクソガキは、大丈夫かと問いただしたくなるくらいに状況に気づいていない。
それどころか、おりこうさんに約束を守ってビッタリと私の横にくっついている。歩きにくい。
いや、離れるなとはいったけど。まあ、迷子になられるよりましか。
あれこれ質問したいのか、うずうずしているが話す時間さえもったいないというようにキラッキラした目でキョロキョロしている。





おまえはお上りさんか。





いや、お上りさんには違いないのか。

「あー、もう帰りたい。」
「何を言っている!まだ来たばかりだろ!」

クソガキが発する良い声(どうでもいい)に、後ろのギャラリーからうっとりしたため息の大合唱。
あれ?野太い声も聞こえたような・・・・・

「タマコ!俺はあそこに行きたいぞ!」
「えー・・・・・却下。」


クソガキが指差したのは最近できたテーマパークの広告。
人混みが嫌いな私への日頃の報復か。 


心底嫌そうに返したのに、聞こえてないふりで笑顔じっとこちらを睨みつけて来る。
周囲からは見つめ合っているように見えたのか、怨嗟の雄叫びが上がった。


行きたくない。行きたくない、が。
そんなつもりはなかったけど、結果的に軟禁状態にしてしまったことはうっすら悪いとおもっている。これでも。
だから今回の外出を承諾した。




・・・・・・・・・・・・っていうのを、こいつ絶対わかってやりやがってるな。


外に出てからやたら強気なのが腹が立つ。
クソガキの癖に!クソガキの癖に!
大人になるのよ、珠子。今こそ階段をのぼる時。


「・・行くよ。」

あ、雑巾を絞ったよう声だしちゃった。ウフ。