結夏との思い出は消せない。
この部屋のアチコチに二年経った今でも色濃く残っている。


カーテンを選ぶ時は笑った。
二人ともサイズを計っていかなかったんだ。


互いがやってくれたものだと思い込んでいたのだ。
今考えると、それも運命だったのかも知れない。


『しょうがないから長いの買う?』

ミドルサイズのコーナーで戸惑っている僕に結夏は声を掛けた。


『どうして?』
何故そんなことを言い出したのか判らずに僕は結夏を見つめた。


『大は小を兼ねるって言うでしょう? 長は短を兼ねる、かもよ』

結夏は恥ずかしそう言いながらも、ロング丈の見本コーナーに向かった。

何だか解らないうちに結夏に押しきられた形になった。


(最初から決めていたのかな?)
そんな疑問も脳裏を掠めたけど僕は結夏に従った。




 素材も又遮光性の高いのからレース状の物まであり、種類が豊富で目移りしていた。


『これだとヤバイね』

手をカーテンの下に入れたら指が透けていた。


『良いんじゃない。あの高さなら下から覗かれることなんかないんだから』

僕が言うと、結夏は耳に唇を寄せた。


『お天道様が見ているよ』

そう言って俯いた。
それは保育園時代の原島先生の受け売りだった。




 『お天道様はね、何時でも君達を見ているのよ』

原島先生は何時もそう言っていた。
それは堂々と生きて行けと言う、原島先生の教えだった。


『夜もですか?』
調子に乗って孔明が言った。


『そうよ。君達が眠っている間もよ。お天道様は地球の裏側からでも君達のことを見守ってくれてるのよ』


『先生。さっきと違うこと言ってる』
孔明がからかった。


『見ていると見守っているって意味、まだ君達には解らないかと思う。だけど、お天道様は何時でも君達の傍にいるからね』




 結夏の言葉を聞きながら考えた。

昼は、動き回っているから見ている。夜は眠っているから見守っている。僕はそんな風に結論着けた。


僕は結夏を見て、二人で真っ直ぐ歩いて行こうって思ったんだ。


僕は今までコソコソ隠れるように生きてきた。
それは孔明の言った、あの大女優に迷惑が掛からなくするためだった。
僕は結夏に、同じように生活してくれなんて言えなかったんだ。


(僕が何をしてもお天道様は見てるんだ。もう、逃げも隠れもしないで生きて行こう。そうしなければ結夏が可哀想だ)

その時僕は覚悟した。