海風はすごく冷たいけれど気持ちいいって感じるのも、初デートがこんなに楽しいのも、きっと大登さんと一緒だから。

寒さで身体を小さく震わせると、それに気づいた大登さんが自分のぬくもりを分けるように私の手を両手でふんわりと包み込む。

「ズルいよな、俺。でも好きな女を落とすためには、男はズルくなるもんなんだよ。覚えとけ」

何だ、その勝手な言い分は。

そう心の中で思うのに怒れないのは、大登さんの手が私の手を優しく撫でているせい?


恋に落ちるのは一瞬──


そんな言葉をどこかで聞いたことがあるけれど、私はもうその“恋”に落ちていると思う。

いつ?と聞かれても、ハッキリとは答えられないけれど。どこで?と聞かれれば、きっと昨日の社員食堂で……と。
そんな夢みたいなこと、現実社会にはないと思っていた。これってもしかして、私の見ている夢じゃない?

キュッと頬を抓ってみる。

「痛い……」

「ひとりで、なにしてるの?」

「えぇ? あ、いえ、すみません」

何も悪いことをしてるわけじゃないのに、すぐに謝るのは癖みたい。でもバカなことをしているところを見られてしまい、もう一度「すみません」と言うと、大登さんが私の肩をそっと抱いた。