「また、出たそうよ!」
「嫌だわ…。物騒ね〜…」

また、その話かぁ…。いいかげん、飽きたなぁ〜。
食事の手を止めず、フォークとナイフを動かしながらメイド達の話を聞いていた。といっても、こっそり聞いているのだけれど。

「あの、ウェスタリン家のご令嬢まで狙われたそうよ!」
「本当に何を考えているのかしらね…。怪盗X…」
「メイカ様がもし狙われてしまったら…」
チラッとメイド達がこちらをみる。私は気にもせず、水の入ったワイングラスを手にした。
メイドが不安がるのも仕方ない。

怪盗X。
近ごろ、ロンドン市内で有名な人物で、警察の手に負えない怪奇事件をたくさん起こしている。その内容というものが少し気味が悪いもので、私のような財閥家や名門貴族にとってはまさに標的になるようなものだった。
怪盗Xは長身で黒いコートのようなものを羽織っていて、男だろうと言われている。現れるのは決まって夜。そして、名のある貴族達の城に侵入する。…そこまではいたって普通(?)の怪盗がやることで、この怪盗Xは違っていた。
宝石目当てではなく、人間目当て…そう、私のような財閥家のあとを継ぐ人間を狙っているのだ!!
だけど、この怪盗X。やっぱりちょっと変態まじってるのか分からないけど、女の子ばかり狙うらしい。そして、何もせずに姿を消す。
先月被害にあったというラン家の話だと、怪盗Xがきた夜の事を全く覚えていないらしい。ひとつ分かるのは、絶世の美青年という事だけ。
…あと、怪盗Xは、ある特定の人物を探しているという情報も出てきた。

「ごちそうさま。」
ナフキンで口のまわりを丁寧にふきとり、席を立つ。すると、さっきまでこちらをチラチラ見ていたメイド達が一斉に動き出す。
「お気に召しましたでしょうか?メイカ様。」
「ええ…とても。ソースがすごく良かったわ!」
にこりと微笑む。すると、たちまちメイドの顔が赤らんでゆく。そして、深くお辞儀をされた。
「じゃあ、私は自室に戻るわ。」
「あ!お待ちくださいメイカ様」
「…何?」
少々間をおいて、メイドは言った。

「お気をつけくださいませ。」