「お疲れ、返事したんだって?もう噂になってたけど」


「あぁ、さっきしてきた」



ロッカー室に原田が顔を出した。
ちょうど誰かに聞いてほしかった僕は、どこかで原田を待っていたのかもしれない。


「なんで断ったんだよ?」


「日本にいたいから…」


「え?それだけ?!」


鏡の中の自分を見ている原田が、珍しく僕を見た。


「日本にいたい理由が、出来た…」



きっと、数ヵ月前の自分だったら迷うことなく承諾していたけれど。

この胸の奥が温かくなる理由が知りたい。
誰かと一緒にいたり、誰かを想うことでこんな風な感情が生まれるのは初めてだった。


瀬戸さんが、笑うと僕も笑う。


それだけで、まるで実験が失敗なく成功した時のように嬉しくなる。


「女?」


原田に言われて、はっと我に返った。


「その理由って、女ができたこと以外に思いつかないんだけど」


「自分でもよく分からない…でもこのままあっちに行ったら、後悔すると思って」


「らしくないけど、なんか嬉しいわ。なんだかんだ会えなくなるの寂しいって思ってたしな」


原田は屈託のない笑顔を見せて、俺の肩にぽんっと手を乗せた。原田のように、素直に感情を口に出来たらいいのに。


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