何を話せばいいのか分からなくて結局山南さんには行ってらっしゃいの一言しか言えなかった。
どうしても気が重くなってしまうのは仕方のないことだと思うけれど、他のみんなにはあんまりそういう姿を見せないようにしないとね。
「東條」
「あ、はい、どうぞ入ってください」
ゆっくりと襖を開けて入ってきたのは小さな包みを持った斉藤さん。あの時団子を買ってきてくれてからたまに甘味をお土産に買ってきてくれるようになった。ちなみにどこで買うかは監察方にも所属している島田魁さんにおすすめを聞いているらしい。なんでも大の甘味好きらしくて。いつか島田さんと甘味巡りでもしてみたいかも。
「今日は羊羮なんですね、美味しそうです」
「あぁ、島田が教えてくれる甘味処は良いところばかりだ」
「斉藤さんもいつもありがとうございます。買ってきてくださって」
「礼など言わなくてもいい。それにもしかしたら甘味を餌にお前を釣ろうとしているのかもしれないぞ?」
「もう、斉藤さんってば…」
一瞬ぎらついた目がこっちを見た気がしてどきっとしたけれどそれはすぐにいつもの淡々としたものに戻った。
「今日は、お前の元気がなさそうだったから買ってきたのだ。…何かあったか?」
「いえ、大丈夫ですよ」
「大丈夫だと答えるやつほど大丈夫ではないだろう」
切り分けられている羊羮を一つ口に放り込むと甘みがじわりと広がる。
「…言えぬことなのか」
「すみません…」
斉藤さんは少し眉を寄せたけれどすぐに諦めたようにため息をついた。
「わかった。ならば何も言うまい」
そう言ってくれたことにどこかほっとしたところで勢いよく襖が開いた。