悔しいけれど――格好良い。そんな言葉が頭に浮かんでしまった瞬間、佐久間が私に視線を向けた。


何を考えてるのだ…私!心の中で頭をぶんぶんと横に振りながら無理やりな笑顔をつくり上げる。


「佐久間さん。わざわざありがとうございます」


「いえ、高邑さん。“これからも”宜しくお願いしますよ」


わざとだろう…皆に聞こえる様に強調しながら、私にだけわかる様に悪戯に口角を上げ笑う。


格好良い――つい先程そんな事を思い浮かべた自分を蹴飛ばしてやりたい。


「こちらこそ。精一杯頑張りますので、どうかご協力くださいね」


目が笑えていないだろうな、と思いながら体面は保てた気がする。


「さて加奈子、先に真田常務に挨拶に行こうか。悪いね、そんな事で少し加奈子と一緒に席を空けるからね」


人目が無くなった場所で佐久間が不意に顔を寄せて小さく呟やく。微かなシャンプーの香りが私の顔を覆う。


「どう?あんな感じでオッケ?第一印象は大事だからねぇ」


機嫌良さそうに耳元で軽口を叩く。この男…


真田常務とも、嫌味もなく堂々と遣り取りを交わす。常務は愉しそうに佐久間の言葉に頷く。


「谷くん、営業と文芸の担当者呼び出してくれんかな?あっと、コミックもだな。一通り此処で詰めてしまおう。構わないかな?佐久間さん」


「ええ、私もその方が助かります」