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「なぁ、八重(やえ)」

「……」

「八重ちゃ~ん。聞いてる?」

「……馴れ馴れしく呼ばないでよ」


読んでいた本から視線を逸らす事なく、低い声を出す事で煩い男を制する。

しかしここで食い下がらないのがこの男だ。出会ってから今日までの1週間で学んだ。

机を挟んだ向かい側に立っていた男は読んでいた本を奪うと、そのままグッと顔を近付けてきた。


「かまって?」

「……嫌」


可愛らしく首を傾げ上目遣いに見つめてくる男におもいっきり冷めた目を向けてやった。
なのにこいつは臆するどころか、ヘヘッと笑って「話そうよ~」なんて言ってくる。


「話す事なんてないし」

「俺はある!いっぱいある!」

「……休み時間は終わり。先生来るよ」

「うおっ、やべ!」