「あ、麻美ぃぃ」

 思はず麻美に抱き付く。

「会長、司先輩。円を泣かせましたね……」

 麻美がどすの利いた声で問う。

 如月先輩が怯えている。会長さんも心なしか動揺している。

「ち、違うの麻美」

「円、ケガしてるじゃない。早く入って。手当てするから」

 結構深いわね。と麻美が包帯を巻いていく。

「で、どうしたの、このケガは」

 なんて言おう。私の嘘が通じるわけないし。

「長くなるから」

「いいから話しなさい」

 麻美に押されて洗いざらいぶちまけた。

「つまり、会長のせいで円がイジメられていると。いつもと同じパターンだけど、円は悪くないのに!」

 思った通り、麻美は怒った。自分のために本気で怒ってくれる人がいるのは、とても幸せなことだ。

「いつものパターンって? 如月先輩も‘今回のターゲット”って」

「ああ。会長に抜け駆けで接触した生徒に、学園全生徒からの制裁がある、ってやつよ。ただのイジメよ」

 はい、出来た。と麻美が言った。指には綺麗に包帯が巻かれている。

「会長さんって、迷惑なイケメンだな」

「え?」

「あ、すみません! つい心の声がっ」

「円ちゃん、フォローになってないから」

 うわ~。本人を前になんてことをっ。

「お前は俺を見て何も思わないのか」

 会長さんが私を見つめる。

「思うって、えと。きれーだなあとか」

 会長さんの瞳が冷たくなった気がする。

 もう。そんな目で見るなら、本音言っちゃいますよっ。

「あとアレですね。怖いです。すでにトラウマです。ちなみに人を見下すような目はどちらかというと嫌いですっ」

 ふう。言い切った~。

 私がすっきりしているのを、三人が目を丸くして見ている。

「な、なんですか。か、会長さんが訊いたんじゃないですか」

 私は謝りませんよっ。

「いや、円は悪くないんだけどさ」

「いや~紘にここまで言う女の子、初めて見たよ」

 会長さんは固まったままだ。

 そんなにショックだったのだろうか。

「あのう」

「名前は」

 うおっ。何で急に喋りだすのこの人。

「お前の名前」

 名前って。麻美がさっきから呼んでるじゃん。あ、もしやあれか。下の名前は呼びたくない、ってやつか。

「川口です」

「……。川口。イジメの件は早急に対処する」

「ありがとうございます」

 私たちの後ろで如月先輩と麻美が話しているのが聞こえる。

「嘘。あれ本当に会長? あんなに柔らかい雰囲気の会長、見たことないわよ」

「円ちゃんみたいな子、初めてじゃない?さすがの紘も……」

「おい、お前ら。ノルマ増やすぞ?」

 おう。会長さんの周りが何か冷たいぞう。

「イエ。シゴト、ガンバリマス」

 麻美と如月先輩が、ロボットのように書類を整理し始める。

 私もここら辺で退散しよう。邪魔しちゃいけないし。

「私、教室に戻りますね」

「川口。大丈夫か」

 大丈夫かって。大丈夫じゃなくても教室にはいかないとですよ。

「その。すまなかった。俺のせいで」

 え。

「何を驚いているんだ」

「会長さんって謝るんですね」

 ビックリだ。

「川口は一体俺を何だと思ってるんだ」

 会長さんがはあ~と息を吐く。

「意地っ張りな子供、ですかね」

 会長さんの目が丸くなっている。

「あ。年上の方に子供だなんてすみませんっ」

「いや、いいんだ。初めて言われた。それにしても川口は驚くほど素直だな」

 そういって、会長さんが微笑んだ。

 私の心臓がドンと跳ねた。

「会長さん、笑うと可愛いですね」

 私の呟きに会長さんは咳き込んだ。

「か、川口、お前、なにを」

「じゃあ、もう行きますね」

 小さく敬礼して生徒会室を後にした。