教室には汚れた机。上靴もズタズタになっていた。
「罰ってこのことか。金持ちのイジメって怖そうだな」
教科書を取り出そうと机に手を入れると、チリっと指先に痛みが走った。
指を見てみると、切れて血が出ている。結構深く切ってしまっているようだ。
机にカッター仕込むとか、危ないな。
血は一向に止まらないので、保健室に行くことにした。
「ああ。ハンカチが血まみれ」
ため息を吐きながら廊下を歩いていると、会長とは違うタイプのイケメンがこちらを向いている。
もうイケメン嫌い。
半泣きになりながら通り過ぎようとすると、呼び止められた。
「今度のターゲットは君? ごめんね。すぐ対処するから」
申し訳なさそうに言われると、文句も言えなくなる。
「いえ。大丈夫です」
「って君! 血が出てるじゃん」
「ええ。だから保健室に行こうと」
貴方が呼び止めたんじゃないですか。
「気が付かなくてごめんね。じゃ、行こっか」
「いえ。一人で大丈夫です」
「特待生でしょ?保健室の場所、分かる?」
あ。
「……分かりません」
間抜けか、私。
「抜けてて可愛いね」
いやいや、可愛くないです。
「どうして特待生って知ってるんですか?」
「あれ、スルーなの?……全生徒の情報がここに入っているから」
人差し指で頭をトントンと叩く。
「それより君、名前なんて言うの?」
「川口円です」
「まどかちゃん?柔らかい名前だね。字は平仮名?」
「いえ。お金の円です。先輩さんは頭がいいんですね。全生徒って凄い数ですよ」
「ありがとう。うちの会長様がうるさくてね」
会長? 何この人、生徒会の人なの?
「あ、そういえば自己紹介がまだだったね」
やめてください。聞きたくないです。
「生徒会副会長の如月司です。よろしくね」
ああ。やっぱり。
「なんでそんなに疲れてるの?」
「もうイケメンは嫌です」
私は如月先輩を置いて歩き出した。もう保健室なんてどうでもいい。
「ちょっと円ちゃん? そっちは生徒会室だよー」
え。
慌てて立ち止まる。
「司はまだか」
目の前に現れたのは、一番会いたくない人。
「何故ここにいる」
「円ちゃん。どうしたの。早くしないと血が」
もう嫌だ。泣くよ? 泣いちゃうから!
「うう……」
「!?」
「痛い? 痛いの、円ちゃん!?」
「円、どうしたの!?」
生徒会室から麻美が出てきた。