ツー…ツー…ツー…

その音を聞いて、やっと耳からスマホを離す




ふーー…

大きくため息をはく。


電話にここまで緊張したのは始めてだ。

途切れた緊張で、だらしなく椅子に寄りかかる



一目惚れとは厄介なモノで…相手のことを何も知らなくても好きになってしまう。
逆に言ってしまえば相手の好きなもの、こと、どうしたら喜ぶのか…それらの事がわかんないから。いざ、誘うとなると何を言えばいいのか、頭の中が真っ白になって、間違い電話と言われる始末…。


「寿嶺先生、次の患者さんです」

看護師に声を掛けられ、中に通すように告げ、入ってきた患者に言い慣れた言葉を言う。


「今日はどうしましたか?」



──────────…

5時を告げるチャイムが鳴る。
入院している人たちに何もなければこれで、仕事終了。
遅番の先生と交換になるんだが…。


来ない…。
来るまで、待ってなければならないので 書類をまとめる。

気づくと、時計の長針が一周していた。



「誰だよ…今日の遅番」

流石に帰りたい。
ナースセンターに行き、看護婦長と日程を合わせて…


「お疲れ様でした」

「寿嶺先生、お疲れ様でしたー」


白衣を片付けて、病院を後にする。

ちょうど流れてきた電車に乗って、がら空きの座席に腰を下ろした。

真っ暗な外の景色を眺めて……何でか、ちとせが思い浮かんだ。
1度思ったら、顔を見たくなって最寄りの駅より2つ前の駅で降りた。


一応、行くことを告げないとと思い発信ボタンを押す。


ワンコール………

ツーコール………

スリーコール………