香奈は高校を卒業して直ぐに近所の工場で事務員とっして働いた。両親の希望としては大学に行き自分達と同じ職業をしていずれは診療所を継いで貰いたいと思っていたのだけれどどうしても嫌だと言って香奈は聞かなかった。そして二人とも諦めた。

香奈は直ぐ側に居る子供の気持ちも解っていない両親がしている人の心を診る仕事を信じられない気持ちで見ていたから他人の話を聞く何て嫌で堪らなかった。そんな両親も他人の気持ちばかりを考え過ぎてみじかな子供の気持ちを解ろうとする気持ちを疎かにしたのかも知れない。

香奈は小さな妹の彩未の事は何から何まで愛情を注いでいるかのような態度も気に入らなかった。二言目には「お姉ちゃんなんだから」と香奈のする事に口を挟んで来た。それは香奈にとっては鬱陶しく思えてやり場の無い気持ちを彩未にぶつけるのだった。仕事も長くは続かず転職を繰り返してとうとう家から出なくなった。そんな香奈を心配して母方のおばあちゃんが香奈を迎えに来た。


『香奈は何も心配せんでえいからバアの家に来たらえい。心配する事は何も無い』

そう言って香奈の荷物を纏める手伝いをしだした。家には紀子も彩未も居なかった。多分日曜日で良幸の家えに行って居るのだ。香奈はその新しく建てたと言っていた良幸の家を見にコッソリ行った事が一度あった。外観は紀子が好きそうな白い煉瓦で包まれ小さな庭には紀子の好きな小さなハーブ園が作られていた。優しい雰囲気のする家だった事が思い出されて胸が潰れてしまいそうになった。そこには香奈の居場所何て無い用に思えて仕方なかった。


『バアちゃん』

香奈はおばあちゃんのシワシワになった手をじつと見ていると涙が出て来て止まらなくなった。おばあちゃんはそんな香奈を愛しそうに見ると優しい笑顔で

『何も言わんでえいからホレッその箱閉めなさいや』

そう言ってガムテープを香奈に渡した。