山口香奈は大阪で生まれた。両親共に精神科医として小さいけれど診療内科をやっていた。

父、山口良幸が三十二歳母、山口紀子二十三歳で出会い不倫の末に出来た香奈は暫くは父親の居ない母子家庭で育っていたが香奈が十二歳の時の香奈の誕生日に父と母は晴れて籍を入れたのだった。香奈が喜ぶと信じた紀子はこの日に入籍をした事が香奈にとって勝手だったとは思いもしなかった。

『香奈ちゃん良かったねお父さんが居て』

紀子は嬉し涙を流しながら香奈を強く抱きしめた「ちっとも良くない」香奈はそんな紀子の喜びの涙が鬱陶しく思えて腹が立った「この人はお父さんじゃ無い」と何度も心の中で叫んでいた。

其れから十年ピッタリの桜が咲いた季節に良幸は家を出て行った。

『香奈、すまんかったなお前の気持ちを解ってやれんで。何時か香奈が結婚したいと思える人に出会って子供を育てる様になったら父さんと母さんの気持ちを理解してくれればいい』

そう言って良幸は肩を落として香奈の部屋を出た。そしてその日に家を立ち去る父親の背中は小刻みに震えていて痛々しかったから香奈は胸がチクチクして堪らなくなった。

見送りにも居なかった紀子がリビングで顔をテーブルに押し付けて泣いている事が香奈には苛々して堪らなくかんじ良幸が居なくなって益々居心地の悪くなってしまった家にいる事さえ香奈の心を掻き乱すのだった。