文久三年、六月六日




「そんでさ、芹沢さん
斬っちまったらしいんだよ!」




「藤堂さんはその場にいらっしゃらなかったんですか?」




「ああ、俺は留守番だったんだ」




京にある一番の甘味処、
私の奉公先でもあるそこは今日もお客様で賑わっている。

今は少し落ち着いて、最近常連さんとなった
壬生浪士組の――藤堂平助(とうどうへいすけ)さんと沖田さんそれから斎藤さんと世間話中です。




壬生浪士組がこの京に来てから三ヶ月、常連となったとは言え怖がって他のお客様はあまり近寄らない。

この方達の話し相手は私ぐらいだ。




「ちょっと平助、それあんまり口外しないほうがいいんじゃないの?」




沖田さんがそう咎めれば「伊勢は言いふらすような奴じゃねえし…」と藤堂さんは口を尖らせる。

先程から藤堂さんが話しているのは先日起こった事件についてらしい。




文久三年、六月三日 夜




壬生浪士の名を語り、悪事を働く浪士の取締りを大阪町奉行から依頼された壬生浪士組は、十名程で大阪に下った。

数名を捕縛したまでは良かったのだが
舟遊びの帰路蜆橋の辺りで前方から来た相撲取りの一行と口論となった。




「わしを誰だと思っている…芹沢鴨だぞ、そこを退け」




「なんだと?!」




近藤勇と同じく壬生浪士組筆頭の――芹沢鴨(せりざわかも)。
道をあけるあけないという小さなことだったのだがこの男には気に食わなかったらしい。

芹沢は力士を持っていた鉄扇で払いのけた。




「フン…雑魚が」




そして何事もなかったように
遊郭で遊んでいたら酒宴の最中に二~三十人の力士たちが仕返しに乗り込んで来たという。




しかし、強者の力士たちとはいえ相手は壬生浪士組の中でも凄腕の剣客達。
脇差しのみで相手をし、力士たちの数名に重傷を負わせ追い払った。