文化祭から1週間が過ぎた頃。
俺と涼太にとって最悪の出来事が起こる。


朝、いつも通り俺は貴也と登校し、下駄箱を開ける。
すると、そこには1つの紙きれ。
内容は俺が目を背けたくなるようなものだった。


『お前ホモだったんだな。気持ち悪。校内でキスしてんじゃねーよ。』


嘘だろ…………
文化祭の時見られた?
涼太が危ないかもしれない…


「おい淳、どうしたんだよ?」

「あ……いや、何でもない。」

とりあえず、今はまだ黙っておこう。


そう思い、教室に行く。
入った瞬間…
その場にいた全員が俺の方を向く。

「淳……これ…」

優は俺の机を指さす。

机には、ホモ。死ね。キモい。カス。女子に謝れ。という言葉が、何ともまぁ汚い字で、しかも何回も書いてあった。

この字はたぶん男子だ。

「これ………涼太のところにもいってんのかな……」


「おい淳、もしかしてさっきの紙きれもこれと同じのなのか?」


「あぁ…。俺は別にいいが、涼太にまでとなると…な。」


『おっ、変態淳様のお出ましじゃないですか?』

『ホントだー!きもっちわりーなぁ』

声の方を見ると、コレを書いたであろう男子達5、6人が教室のドアにいた。


「てめぇらか、これ書いたの。」


少しキレ気味で貴也がそう言った。


『さぁ?どうだろうね?』

『ま、書かれても仕方ないんじゃない?』

『学校で男同士がキスなんて、ねぇ?』


ひと通り言い終えると、中心人物と思われる金髪の男がこっちに来て…

『だいたいよぉ、気にくわなかったんだよなぁ。イケメン面して、女子にキャーキャー騒がれてさぁ。調子こいてんじゃねーぞ?』


はっ……
こんなの

「負け犬の遠吠えじゃねーかよ。なに中学生みてーなことやってんだよ。バカじゃねーの?」


俺、売られた喧嘩かわないとか、無理。
しかもこんな低レベルな奴。
負けたくないね。


俺はその金髪頭に睨みを効かせる。


『もぅ一回言ってみろよ……』

「何?言い返せなきゃ暴力に出るの?ダサいよ?」

『チッ…あーぁ。やだやだ、ホモがうつっちまうよ…』


次の瞬間、俺の後ろのほうで思いっきり机を蹴る音が聞こえた。

「おい貴也、うるせーぞ」

「いや……俺…じゃ、なくて…」


貴也が指をさす方には優と倒れた机。
って、え!?

「ゆ、優!?」

優は金髪頭の所へツカツカやって来る。


『これはこれは、校内一美人の原石 優さんじゃないですか……?』

「気安く名前呼ばないでくれる?こっちは大事な友達にあんなことされて虫の居所が悪いの。だいたい、嫉妬でこんなことして、恥ずかしくないわけ?キモいのはどっちよ!」


やべぇ……優さんおっかねー。


『あ?いくら美人だからっててめーも調子こいてんじゃねーよ!』


そう言い、金髪頭は優に平手で殴ろうとしていた。

貴也が動きだす前に、俺は優の前に入り殴られる。

バチン!という音が教室に響くと同時に女子の悲鳴が聞こえた。


「ってぇな……へー、あんた、女に手あげようって?ほんと、根性腐ってんね!目障りなんだよ…散れ。」


俺がそう言うと素直に立ち去ろうとする男子。
だが、その後ろには今通りかかったであろう涼太がいた。


「へー、君達、僕の淳ちゃんに手、あげたの?」

『た、谷!?』

「ねぇ、また前みたいに痛い目あいたい?」


前みたいに?
どういうことだ……


『お前1人、次は負けねーし。っつか、お前らきめんだよ……おい、行くぞ』


今度こそ去っていく男子達。


俺のせいで、涼太も貴也も優も、これから皆に避けられるかもしれないな……


「おい淳!お前のせいで俺らが避けられるなんて思ってんじゃねーだろうな?」


こいつ……
当ててんじゃねーよ……

「あたしらは何されたって、淳と谷君の味方するわよ!?だいたい、こんなことになるなんて、キャンプの日から覚悟してんのよこっちは!」

「俺なんか中学の時から覚悟してるっつーの!」



『ってか………淳て、ホントにホモなの?』

『あたしら、頭の整理がつかない……』

『ごめん、鬼森と谷、キモいわ。』

『あたし、ファンクラブ抜ける』

『あたしも………』

「何よ………あんた達……こんなことで淳たちを嫌うわけ!?あんたらこの人達の何見てたの!?見た目!?それだけ!?淳や谷君の、中身も全部好きだからファンクラブ入ってたんじゃないの!?」


涙を流しながらも言ってくれる優。


「優、もういいよ。俺が軽率だったんだよ。」


「だって!……こんなの、悔しいじゃない……」


「俺が悪いんだよ………嘘ついてる俺が悪い。貴也も、ずっと長い間俺の嘘に付きあわせてすまなかったな」


「お前らしくねーぞ。」


『嘘って………なんの話?』


そこで、担任が教室のドアを開け入ってくる。
タイミングがいいんだか悪いんだか……

「ん?皆どうした?早く席つけよー」

その声で皆が席につく。

「涼太も貴也も、教室戻れよ……」
 

俺がそう言うと、貴也が俺の手を引き、教室を出る。
それに付いてくる優と涼太。


「おま…何して……」


連れて来られたのはあまり使われていない資料室。
ここは鍵が壊れていていつも開いているのだ。


最後に入った涼太がドアを閉める音がする。


「淳……さっきはごめんなさい。私のせいで…もう、ホントのコト言えばいいんじゃないかしら…」

「あぁ、言えばきっと分かってもらえる。それに、元はと言えば、お前のおふくろさんと俺が言い出したことだ。」

「そうだね……僕もそれがいいと思うよ」


そうすれば、もし何か言われても、貴也や優、涼太に危害は加わらないかもしれないな……


「ああ、そうするよ。」


そして、休み時間。
俺は教室の皆に今まで嘘をついていたことを告げる。
その場には、朝モメた男子達もいた。


『はっどっちにしろ変態野郎じゃねーかよ』

『皆のこと騙してたんだ…』

『女子の気持ち考えてよ!』

思ったとおり、非は俺だけに向けられる。
どうにでもなれ。


「ホント、ごめん……」

俺は深々と頭を下げる。


『わ、私は!!私は、それでも、鬼森君を嫌いには…なれないよ!!』


え?
この声は…
西崎さん?

頭を上げ確認すると、やっぱり西崎さんだ。


『ちょっと何言ってんの?』

『淳は皆を騙してたんだよ!?』

「そうだとしても、鬼森君の優しさは……本当だと思うの!!野球やってた人達のボールから自分の身を盾にして守ってくれたり、トイレの時だって、すぐ駆けつけてくれたし、朝も、皆見たでしょ!?そこにいる怖い人が優ちゃんを殴ろうとした時、鬼森君が盾になって自分が殴られたんだよ!?その行動が嘘だなんて……私には思えないよ!!」


「にし……ざきさん……」


「そうよ。淳は、簡単に嫌いになれる性格なんて…してないわよ…」


何だよ…
何でこんなに……
俺の周りには暖かい人達がいるんだ……