その大扉は見る者を中に入る気にさせるような趣があった。

…本当にファンタジーだな。
この扉の向こうが夢の国…イメージは中は花畑かな。


「入りますか?」
にこやかな笑顔を一向に崩さずにイルマが尋ねてくる。
…頬筋痛くないのかなぁこの人。私だったらすぐ疲れるけど。

「…どうせ中に入らない選択肢は私には無いんでしょ?」

そう、ここへ来る発端となった案内状。
『夢の国へお越し下さい』
と、こちらの意思に任せるような文面で送ってきたにも関わらず、強制的に夢の国の玄関まで連れて来られた。
ということは、私は扉をくぐることになるのだろう。


イルマは苦笑を浮かべた。
「…探偵に会ってみたくないですか?」
はっきり答えない辺りが明日香の質問の答えだ

「そりゃ会ってみたいけど?せっかく夢の中だしね。ただ…。」
「ただ?」
「どうも胡散臭いって言うかさぁ、何か怪しい。現実世界に戻れるんでしょうね?」

ファンタジーの世界に入ったきり引き戻せなくなった、なんてことになると怖い。
夢の国なんて言いながら、あの世へ行かされるのではないか。

「まさか。そんな悪徳商法みたいなことしませんよ。保証します。明日の朝にはちゃんと目覚めますよ。」
「思考を読むなこら。」
明日香の思考を読んだイルマの答えにツッコミを入れながら明日香は考える。
ほんとに帰れる?
じゃあ、行ってもいいかも。
ここまで来たのだから扉をくぐるくらい変わらない気がしてきた。

なんだかんだ言ってこの時から既に夢の国に心を奪われていた。そのくらい探偵に会えるというのは自分の中で大きかった。
「行くわ。」
イルマと名のる不思議な男の目を見ながら言えば、男は変わらぬ笑顔の奥にしてやったりという意志を浮かべた。