「問題はここから……タクという後継ぎを失ったおじ様の──大企業をまとめる『社長』の次の標的は即座にナギに移ったの。ナギは次期社長候補、そして私の婚約者になった」

「そ、んな──」

 杏奈は少しだけ冷やかに(わら)い、少女は(おび)えるように言葉を失った。

「非情だと思う? 横暴だと? 面白半分で婚約は交わされた訳ではないのよ。桜と三ツ矢、もしも婚姻関係になったら……分かるでしょ? 日本の四大企業である二社が合併すれば、それは三大企業ではなく日本一になる。トップに君臨することになるのよ」

「だけど……それじゃ……」

 ──そこに愛情はなくても、いいの?

 モモの瞳は、揺るがない杏奈の眼から離すことも出来ぬまま震えた。

 そんな結婚、単なる自己犠牲ではないのか?

「ナギを不憫(ふびん)だと思う? 私のことも」

 杏奈は一呼吸置き、

「だったら貴女がナギの代わりに、三ツ矢の誰かに(とつ)いでくれてもいいのよ──『桜 桃瀬』さん」

「え……?」

 驚き見開かれたモモの大きな瞳に、意地悪そうに吊り上った杏奈の唇が焼きついた──。