「はじめまして」
満開の桜。蝶が花壇を儚げに舞う。
似たように儚げに笑う君。
「はじめまして」
僕は同じように返した。と思う。
「君、こんなところで何してるの?」
君って・・・
「僕は“君“と同い年だ」
「・・・そっか。そうなんだ!」
僕は何度もこの光景を見た。
いわばこれは、【23度目の今日】なのだ。
「私ね、毎日記憶がなくなっちゃうの」
「・・・うん」
知っている。23回聞いたのだから。

僕は彼女に恋をした。
何度目かの今日に。

―桜のつぼみが今にも膨らみそうな日。
僕は怪我をして近所の総合病院に来ていた。
はあ。ついてない。大学に入学早々転んで怪我とか・・・
「ダサすぎ」
右腕にギプスをつけて帰ろうとしていた。
「はじめまして」
そんなとき彼女は急に声をかけてきた。
「あ・・・ども」
見た目は僕より幼く見える。
「なにがダサいの?」
彼女は華奢な首を少し傾げて見せた。
「え、っと・・・大学入学早々、怪我、しちゃって・・・」
って僕は見ず知らずの女の子になにを言っているのか。
「ってことは!君は18歳?同い年だ!」
そう言って笑った。彼女は笑っていた。
それから毎日通院の度に彼女と話した。
本当は週に一回でいいのに。
毎日、毎日。そして少しずつ彼女にいろんなことを聞いた。
聞かされたといってもいいかもしれない。
何を話しても、翌日には忘れてしまう。
でも僕はそれが嫌じゃなかった。
むしろいつしかそれを楽しみにしていた。