むくれたままポキポキ氷柱を始末している露李を見つつ、結は水無月に近寄る。


「おい水無月どういうことだよ、露李寝かせとけって言っただろー!」


「露李が起きたいと言ったから」


平然と答える水無月に一瞬固まる。

小声で話しかけたところまでは良いものの、危うく怒鳴りそうになる。


「いやだから!少しは空気読めよお前は」


「露李が起きたいと言ったから起きたのだ。そして神社の世話をしなくちゃと言ったから外に出た。何か問題か?」


「問題とかじゃねーよ!ったく、空気をだな!」


「うるさい、この俺に命令するな。貴様、露李の意思を妨害する気か」


毒々しい声色に絶句。


そのとき俺は思い出した──こいつは露李関係で何を言っても無駄だということに。


ご贔屓の少年漫画のフレーズを思い起こしながら、目の前にいる男にどうやったら理解してもらえるのか途方に暮れる。


「お前は、空気を読め空気を!台無しだろーが!」


「露李が起きたいと言ったから」


「またそれか!」


「あーあーはいはい。結、それ無駄無駄。落ち着いて」


文月が間に入り執り成す。

少なくとも、水無月に露李関連のことで何を言っても無駄なことは皆すぐに学習している。

結以外は、の話だが。

そして、露李の意思に関して水無月が馬鹿になるので巧く言いくるめれば扱いやすいということも学習している。

結以外は。


「何だ。露李の手伝いをしたい。用があるなら早く済ませろ」


「何だよそれ、文月と俺の扱い違わねーか」


「だって俺の方が水無月に有益な情報あげるもんね?用なかったら邪魔しないし」


ねぇ?と同意を求めると、水無月はすんなり頷く。


「ああ。風雅は強さや精神力では誰よりも上だが、バカだ。それに比べて大地は頭が良い。信用できる」


「思いっきりバカにしたよな!?したな!?」


「うるさいよ結。要するに水無月、結は露李ちゃんを喜ばせたくて寝かせとけって言ったんだよ。こんな寒い仕事、女の子に俺だってやらせるの乗り気じゃなかったしね」


寝てる間に雑務を終わらせたかったわけ、と文月が締め括ると、水無月は納得したように相槌を打った。


「なるほど。それは悪かった。今度から気をつける」


それだけ言い残し、そそくさと露李の所へ駆け寄る。


「何だあれ、悪かったとか言うやつだったかー?」


「言い方次第だよ」


「そろそろ俺はお前が本気で怖いわ!」


恐ろしい、と大げさに首をすくめる結に笑ってみせた。