踏みにじられた生命~紅い菊の伝説1~

 美里は再度、佐枝の気持ちを治めようとしたが、今度は時間をかけても彼女の興奮は治まらなかった。美里の気持ちは焦り始めていた。早く美鈴の後を追いたがったが、興奮している佐枝をこのままには出来ないし、美鈴がどちらの方向に浚われていったかも判らなかった。誰か手を貸してくれる人はいないかと辺りを見回すと小太りの中年女性が歩み寄ってくれた。
 後は美鈴の後を追うだけだ。
 美里がそう思った時、今まで倒れていた魔鈴が体を震わせながら起き上がり、美里の目をじっと見つめてきた。まるで美鈴が連れ去られてしまった方向が判るとでもいいたげなしっかりとした視線だった。
 美里はこの使い魔に賭けてみようと思った。その決断を待っていたかのように魔鈴は道路に出ると走り始めた。
 美里は歩み寄ってくれた女性に佐枝を任せると急いでバイクに跨がり、前を走る使い魔を追っていった。

 ガムテープで両手、両足、口の自由を奪われ、美鈴は猛スピードで走る車の助手席に座らされていた。隣の運転席には、小太りで、ぼさぼさの長い髪に無精髭の男が目を血走らせて運転している。
 その男は加瀬拓也だった。
加瀬は以前から少女を自分の手に入れたいと思っていた。けれども彼の小心さがそれを押しとどめていた。それが実行してみると案外うまくいってしまった。数人いた通行人は加瀬の犯行をまるで気づかないように容認していた。そうだ、彼等は面倒なことに巻き込まれたくないのだ。
 もっと早くやってしまっても良かったのだ。加瀬は自分の小心さを呪っていた。
 少女を自分の自由に出来、加瀬の心は浮き足立っていた。その反面、追跡者があるのではないかという不安が背後から迫ってくるような感じがした。
 小刻みにギヤを入れ替えてアクセルを深く踏み込む。車はその指令に基づき加速していく。
 速度が乗ってきた時、加瀬は自分の不安が杞憂に過ぎないものだと感じてきて、次第に落ち着きを取り戻してきた。細かく変動を繰り返してきた排気音が一定になっていく。加瀬はちらりと助手席の方に目をやった。
 そこにはスカートが少しめくれ上がってため露出した清らかな太ももが覗いていた。触れてみたいという感情が突き上げ、加瀬は左手を太ももにのせ、撫で回した。
 美鈴の背中に悪寒が走った。
 魔鈴は疾風のごとく車の流れを交わしていく。その後を美里のバイクが追っていく。八十キロ近くスピードを出しているバイクに追いつかれることなく魔鈴は走り続けた。魔鈴の速度は落ちることがなかった。
 魔鈴を見失いまいと美里は視線を道路に近い高さに固定していた。周囲を走り車などお構いなしに走った。
 不意に左右を走っている車の速度が落ちてきていることに美里は気づいた。視線をあげると信号機が『赤』に替わっていた。
 周囲の車が泊まり始めていく。だが、魔鈴は停まることなく、交差点に飛び込んでいく。 美里は意を決したようにギヤを一段落とし、エンジンにトルクを与える。
 タコメーターの針が一気にレッドゾーンに達する。エンジンの咆哮が辺りに響く。スロットルを一気に開く。
 すぐさま美里はギヤを元に戻し再びスロットルを開ける。
 バイクの前輪が浮き上がり交差点に飛び込んでいく。左右の車が挟み込むように走り出す。その流れを断つように美里のバイクが走り抜ける。
 急ブレーキの音が幾つも左右から聞こえてくる。その場に止まれる車もあれば、流されていく車もある。
 そして、車の接触する音があちこちで響き渡る。
 
数台のパトカーが一斉に美しが丘署から飛び出していく。佐枝の通報にいち早く警察が反応したのだ。
 パトカーは走り去った美里のバイクを追尾する。

 国道に入って少し余裕が出てきたのか、加瀬の神経は車の制御から美鈴の太ももを撫でる左手に移っていく。自然と車の速度は落ち、周囲と同じ巡航速度になる。
 美鈴は体を捻って加瀬の左手から逃れようとする。しかし、加瀬の左手はそれを許さず、逃れようとする太ももを抑えつけ、ゆっくりと上の方に動いていく。

 国道に入った魔鈴と美里はその速度を落とさずに走り続ける。巡航速度で走る車を右へ左へと追い越していく。
 やがて前方に古い型の中古車が見えてくる。 それを見た魔鈴は更に速度を上げる。
 美里の本能がそれこそ追っていた車だと告げてくる。
 美里はエンジンに再びトルクを与える。
 エンジンが悲鳴を上げて後輪で激しく路面を蹴る。
 背後から複数のサイレンの音が近づいてくる。

 後方の異変に気づき、加瀬は美鈴を撫ででいた左手をギヤに戻し、再び車の制御に神経を集中した。加瀬の本能が自らの危険を告げてくる。
 加瀬は思い切りアクセルを踏み込む。
 だが、彼の指示を緩慢に受け止めたのか、車はなかなか速度を上げようとはしない。
 苛立ちを感じた加瀬は更にアクセルを踏み込む。
その時、加瀬の車の横を一台の赤いバイクが矢のように走り抜けていく。

 加瀬の車の前に回り込んだ美里は、急ブレーキをかけた。思いもかけない命令にバイクの後輪は悲鳴をあげて滑り始める。
 美里は暴れ馬のようになったバイクをtきから任せに抑え込み,車体を傾けていく。
 バイクは横滑りをしながら急速に速度を落としていく。

「うわぁ」
 急に目の前に現れた障害物に驚き、加瀬はブレーキを床まで踏み込んだ。今度は加瀬の命令を忠実に受け止めて、車は急速に停まり始めた。
 四輪のタイヤは悲鳴をあげ、ハンドルが暴れ出す。
 加瀬は左右に振れるハンドルを抑えつけるのが精一杯だった。しかし、ハンドルは抑えつける力から逃れ、大きく左に切れた。
 車は緩やかに回転を始めた。
 世界が回り始めることを感じた美鈴は声の限りに悲鳴をあげた。

 やがて一台のバイクと一台の車は、数メートルの間隔を開けて完全に停止した。
 その周囲を取り囲むようにやっと追いついた複数のパトカーが停車した。 
 その日の夜…
 飯田美佳は脅えていた。
 吉田沙保里を虐めていた仲間が既に三人殺されている。もしもそれが沙保里の死に基づく復讐なら、次に殺されるのは自分だ、美佳はそう確信し、自分の部屋に閉じこもった。 いつだっただろう、ホームセンターで複数買ったダイヤル式の南京錠と金具を全部使って内側から鍵をかけた。
 そうだ、外に出なければ、人と接触しなければ、殺されることはない。
 外に出さえしなければ良いんだ。
 それは考えに考えた結果の美佳なりの答えだった。
 きっと私を殺さなければ復讐は終わらないのだろう。それならば私は何日でも、何年でも、犯人が諦めるまでこの部屋から出ないことにしよう。
 美佳は頭の中で何度も同じ言葉を呟き続けた。その言葉は揺らぎ、木霊して、次第に大きくなっていく。ついにその音は美佳の頭の中一杯に響き渡り、彼女の頭蓋骨を砕いてしまうほど大きな力となっていった。
 それに耐えきれなくなった美佳は家の外にまで聞こえるほどの悲鳴をあげる。
 何度も、何度も、繰り返し彼女の声が闇を切り裂いていく。
 誰かが階段を駆け上り、美佳の部屋の扉を叩く。
「どうしたの、美佳ちゃん。大丈夫?」
 母の狼狽した声が扉の外から聞こえてくる。それが美佳の心を更に逆撫でする。
 悲鳴が更に大きくなっていく。それと同時に頭痛が走る。悲鳴が大きくなっていくと共に頭痛は激しく、脈打つように走る。やがてそれらは限界点に達する。
 美佳の意識がぷつんと途切れた。

 闇を切り裂かんばかりの悲鳴を小島と恵は飯田家の近くの物陰で聞いた。何か異変が起きたのだろうか、直感でそれを感じた恵は物陰から駆け出そうとする。
 それを小島が押しとどめて首を小さく横に振る。
「大丈夫だ、あの子はまだ部屋の中にいる」
 小島は恵に囁く。
 飯田美佳に張り付いて何日がが過ぎただろう。僅かな手懸かりしかなく、犯人にたどり着く目星もない今となっては、次に襲われるであろう美佳に、その保護の意味も含めて張り込んでいた。美佳は野川明美が殺された翌日から部屋に閉じこもってしまった。おかげで張り込みは楽になったが、何度となく繰り返される悲鳴には二人とも神経を擦り切らせていた。
悲鳴が止み、再び静寂が訪れた。
 小島と恵は緊張を解いていく。
 彼等の傍を揺らいだ空気が通り過ぎる。

 加瀬拓也が引き起こした誘拐事件の事情聴取が終わったのは夜も更けた時間帯だった。鏡美里と美鈴を乗せた赤いバイクは二人のアパートに向けてゆっくりと流している。
「お腹、空かない?」
 心地よい排気音の中、美里はタンデムシートの美鈴に言った。
 そういえば、まだ夕飯を食べていない。
 加瀬拓也に連れ去られていた時の緊張が解れ美鈴は「うん、空いた」と応えた。
 美里はハンドルを切ると黄色い看板を掲げたファミリーレストランにバイクを導いた。
 お定まりのレイアウトの店内に入ると二人は窓側の席に座った。程なく若いウェイトレスが来て、二人の前にメニューを置いていく。二人はそれを見て暫く考え込んだ後、パスタとサラダ、ドリンクバーを注文した。
 注文した料理は数分後に二人の前に並べられた。工場で大量生産され、最後の工程だけを店内で仕上げるこの料理は、同系列の何処の店でも同じ味で食べられる。
 それでも小さい頃からこの味に親しんできた美鈴には充分満足できる味だった。

 食事を終えて一段落つくと美鈴は母に問いかけた。
「教えて、あの時私に何が起こったの?」
 美鈴は黒い人物と接触した時のことを美里に聞いたのだ。あの時、美鈴は心の奥からの声を聞いた。そして意識が途絶え、気がついた時には病院のベッドの上にいた。
 その間、何があったのか、あの声は何だったのか、母ならばその答えを知っている気がしたのだ。 
 美鈴の言葉を聞いた美里は暫く考え込んだ後、美里は重い口を開き始めた。
「あなたの心の中には別の人格が生まれたのよ。あの悪夢を見た夜から…」
「別の人格?」
「そう、私達の一族はそれを『紅い菊』と呼んでいるの」
 と言って、美里は『紅い菊』について説明を始めた。
『紅い菊』は、一族の女に時々現れる特に強い力を持つ人格だった。それ自体の肉体は持たず、一族の女の心の奥に寄生し、普段は現れないが『もの』と直面した時や『もの』の気配を感じた時に現れ『もの』を屠って成長していく存在だった。『紅い菊』が現れた時、宿主の意識は失われるのだった。『紅い菊』は様々な使い魔を使い、碧眼の黒猫もその一つだった。
 あの時の声や記憶が失われたのは『紅い菊』が出現したから起きた現象だったことを美鈴は知った。 
 ファミリーレストランを後にした美里と美鈴は停めてあった赤いバイクに向かって歩き出した。
 夜の空気はひんやりとしていて、あえ衣服姿の美鈴には少し肌寒かった。等間隔で並んでいる街灯が辺りを明るく照らす。
「みゃぉ」
 どこから来たのか、魔鈴が魔鈴が不意に現れ足下から美鈴を見上げる。街灯の光を受けて魔鈴の碧眼が鋭く光る。
 その時、美鈴の心の中を電流のようなものが走った。彼女の意識が途絶え、瞳と髪が次第に赤く染まっていく。
 美鈴は『紅い菊』に変わってっいった。 
 
 美佳が意識を取り戻したのはあれから三十分ほど経った頃だった。粘ついた汗が体中に纏わり付き気持ちが悪い。シャワーが浴びたい。美佳は正直そう思ったが、すぐに考えを変えた。部屋から出る気にならないからだ。 暗い闇には何かが潜んでいる。その何かは美佳に殺意を抱いている。だから夜の間は特に部屋を出ない方が良い。
 この夜から抜け出したらシャワーを浴びよう。それまでの辛抱だ。ただこのままでは気持ちが悪い。とりあえず着替えよう。
 美佳はクローゼットを開けて着替えを取り出した。濡れた肌着を脱ぎ、乾いたそれに替える。どこかで犬の遠吠えが聞こえる。
 美佳は驚いて下着のままで部屋の片隅に飛び退いた。
 体が細かく震えている。
 歯の根が浮いてかちかちと音をたてる。
 向かい側の壁に小さな黒い染みができる。それは生命があるように四方にゆがみながら大きくなっていく。
 やがて染みが人型になった時、それは壁から抜け出して、美佳の前に立ちはだかった。「久しぶりね、飯田さん」
 染みは不気味に微笑み、美佳を見下ろしている。
 美佳にはその人型を知っていた。
 それは吉田沙保里だった。
 それは『もの』だった。
『もの』は少しずつ美佳に近づいてくる。その度に美佳の恐怖は大きくなる。
 沙保里はベッドに腰をかけ、こちらを見つめる。
「懐かしいわね、よくあなたたちと遊んだ…」 美佳は沙保里から目を反らそうとした。だが、出来なかった。反らそうとすればするほど、視線は沙保里に吸い込まれていく。
「楽しかった、わね?」
 沙保里は笑った。口の端が残忍に歪む。
「やめて…」
 美佳の声が震える。
「こっちに来て」
 沙保里が美佳の方に手を翳す。
「いや…」
 壁に背を付けていた体が離れ、自分の意志に反して足が一歩、前に出る。
 一歩、また一歩、美佳の体は沙保里に近づいていく。
「もっとこっちに…」
 沙保里はベッドから立ち上がり美佳を迎えようと両手を大きく拡げた。  
『紅い菊』は魔鈴と共に夜の街角を疾風のように駆け抜ける。この時間になると仕事帰りのサラリーマン達が歩道を歩いているので、彼女達は車という障害物の少ない車道を走る。
 後ろを走る美里のバイクは振り切られない程度のスピードを出している。それでも街中で出せるスピードの限界に近かった。
『紅い菊』は街の幹線道路から住宅街の路地に入る。途端に街灯の数が少なくなり辺りは薄暗くなる。夜の公園が後ろに飛び去っていく。人が、街灯の明かりが、瞬時のうちに飛び去る。
 美里のバイクが悲鳴をあげて追いかけてくる。しかし、先ほどよりも速度が落ちているため、『紅い菊』との距離が徐々に拡がっていく。
 バイクの音が遠ざかっていく。
『紅い菊』は幾つもの角を曲がり、やがて目的の家の前で立ち止まる。息は少しも乱れていない。彼女は目的の家の二階を見上げる。道路に面した窓の明かりが時折明滅している。 その家の表札には、飯田と記されていた。

 美佳の悲鳴はもはや声にはならなかった。目の前に断つ沙保里から必死に視線を反らそうとして瞳や顔が細かく震える。
 お互いの息が触れ合うほど近づいた時、沙保里は遠くを密様な目で口を開いた。
「あなたたちは友達も作れない私に声をかけてくれたわね。それから私達はいつも一緒にいた…」
 美佳の震えが大きくなる。
「そういえば、こんなことがあったわね?」 沙保里は微笑みながら美佳にあるイメージを送り込む。

 それは、美佳達に声をかけられてから数日後のことだった。
 沙保里が部活から教室に戻ると彼女の席の周りに教科書やノートがばらまかれていた。全ての表紙には赤いインクで「死ね」と書かれていた。  
 沙保里はパニックを起こした。
 誰が、何故こんなことをするのか?その疑問だけが頭の中で渦巻いている。沙保里は床に散らばった教科書やノートをかき集め鞄の中に入れていった。
 そして、最後の一冊を手にしようとした時、誰かの手がその教科書を取り上げた。
「どうしたの、沙保里。」
 三上響子だった。
 響子は教科書の表紙を見て隣にいた野川明美に手渡した。
「やだ、これ、ひどぉい」
 明美は残った二人にもその教科書の表紙を見せた。
「誰がこんなことしたのかしら?」
「ほんとよね」
 伊本彩花と美佳が口々に言いながら這いつくばっている沙保里を見下ろした。彼女達は心配しているような言葉を発しながら、それでもその目は笑っていた。
〈こんなことをしたのは、この人達だ〉
 沙保里は見下している八つの目を見てそう悟った。
「それから、こんなこともあったわね」
 沙保里はまた別のイメージを美佳の脳裏に送り込む。

 スーパーマーケットの前に沙保里達五人が屯している。声を潜めながら何かを企んでいる。
「だからさ、何でも良いんだよ。盗ってくるものなんて」
「そうそう、あんたの勇気が見たいんだからさ」
「大丈夫、私達が見張ってあげるからさ」
 美佳達は口々に沙保里を説得する。
 どうやら沙保里に万引きをさせようとしていた。勿論、彼女達の目論見など判っていた。今まで何度同じ様なことを言われて万引きを繰り返してきたのだろうか?いつも彼女達は見張り役で、実行するのは必ず沙保里だった。 沙保里はもういい加減にこんなこと辞めたかった。これまでは運良く見つからないできた。けれども、それはあくまでも運が良かっただけなのだ。こんなことを繰り返していけばいつかは捕まってしまう。そんなことは判りきっていた。
 それならば、美佳達との付き合いを辞めてしまえばいい。沙保里は何度となくそう考えていたが、そうした時の彼女達の仕返しが怖くて出来なかった。
「さあ、行くよ」
 響子が促すように言い、それを切っ掛けにして四人が沙保里を取り囲んでスーパーマーケットの中に入っていった。
 沙保里は脅えながら店内を廻っていく。どれを盗ったらいいものか決めかねていると取り囲んでいる誰かの声がした。
「何してんだよ、早く決めろよ」
 その言葉は沙保里の心を貫いた。恐怖が彼女を包み込む。沙保里の心は抵抗することを諦めた。
 盗るならなるべく小さいものにしよう。それならば見つかりにくいから…。沙保里はそう考えてお菓子売り場に移動し、その中で一番近いチョコレートに手を伸ばした。それを見計らったように、それまで沙保里を取り囲んでいた壁が一斉に四散し、チョコレートを鞄に入れようとする沙保里の姿が曝されてしまった。
 沙保里の体は一瞬固まってしまったが、それでも努めて冷静を装って店の外に出て行った。
 その時、
「ちょっとお客さん」
 沙保里は背後から声をかけられた。沙保里の恐怖は頂点に達した。返事も出来ずに俯いてしまう。
「お客さん、お会計の済んでないものがありませんか?」
 声をかけてきたのは万引きを専門に監視している警備員だった。
 沙保里は観念して鞄の中からチョコレートを出した。
「ちょっと事務所まで来てね」
 警備員は沙保里の手を取ってスーパーの中に消えていった。
 その様子を物陰から見ていた四人の顔に残忍な笑みが浮かんだ。