「そこで何をしている!」
 黒い人物のに後数メートル近づいた時小島は身構えて叫んだ。その声に反応して黒い人物はゆっくりと立ち上がり小島を睨みつけた。 その目には未だ果たされぬ強い憎悪の光が満ちていた。小島はそれに負けないように臆することなく身構えたまま黒い人物を睨み返した。
 両者は打つ手がなく、互いに睨みつけたまま相手の動きを探っている。様子を探りながら小島は相手に悟られないように倒れているふらりの少女の状態を確かめる。
 首に紐状のものを巻かれた少女は倒れたまま動かない。もしかすると彼女の命を救うには間に合わないかもしれない。
 腹部から血を流している少女は膝を抱えて胎児のような姿勢を保っている。その体は微かに震えている。恐らくまだ間に合うだろう。 そう小島が見立てた時、遅れてきた恵の足音が近づいてきた。
「嬢ちゃん、救急車だ!」
 小島は恵に叫んだ。
 恵は小島の指示通りに携帯電話を取りだして一一九番にダイヤルする。
 それを切っ掛けにして事態が動いた。
 黒い人物が手にしていたナイフを小島めがけて投げつけた。ナイフの刃はまっすぐ小島の心臓を目指してくる。小島は右に跳び其れを避ける。ナイフは目指す目標を失って彼の背後にあるフェンスに当たって落ちた。すかさず小島はそれが放たれた方向に視線を戻す。そこに黒い人物の姿はなく、その人物は数メートル先を走っていた。
「待て!」
 小島は黒い人物を追い力の限り走った。
 しかし、黒い人物のzしは速かった。見る間に二人の間の距離は拡がっていく。
 そして黒い人物は校舎裏のフェンスの向こうに消えていった。
 小島は衰えてきた自分の体力を呪った。彼は息を切らせながら恵のいる方に戻ってきた。
丁度恵が腹部から血を流している少女に自分のハンカチで止血を行っているところだった。「その子、大丈夫か?」
 小島の言葉に恵は頷いた。
 それを見て安心した小島は倒れているもう一人の少女の首を見た。彼はその紐状のものに見覚えがあった。
 過去二人の少女の首に巻かれていたものと同じものだった。
 小島は一つの結論に達した。
「あいつが犯人だ…」
 小島が呟いた時、遠くからサイレンの音が近づいてきた。