琢哉さんと話したいのに、琢哉さんは私の話しを聞いてくれない。
琢磨の事も一方的に琢磨の我が儘だと決めつけて、
琢哉さんは怒るばかり、あんな琢哉さんは嫌いだ。
私はどうしていいのか分からなくて、
子供ころからよく知っている。
小児科医の小林愛子先生に電話した。
私の話しを聞いてくれた愛子先生が、家まで車で迎えに来てくれた。
私は愛子先生のお宅にプチ家出する事にした。
プチ家出は愛子先生の提案。
少し琢哉さんを脅かしてあげましょう。
琢哉さん驚くよね。
琢哉さんごめんね。
だって琢哉さんがいけないんだよ。
琢磨の気持ち分かってあげようとしないで、
あんな大きな声で怒鳴った。
琢磨が琢哉さんを恐がって近寄れなくなったんだよ。
琢哉さん琢磨の事どう思ってる。
琢磨はまだ小さいんだよ。
まだ赤ちゃんなんだから。
なのにお兄ちゃんになるからって、
一杯我慢させるの?
琢哉さん琢磨を抱き締めてあげて。
琢哉さんが琢磨の気持ち分かってくれるまで、私帰らないからね。
決めたんだから。
このままじゃ琢磨が可哀想。
琢哉さんお願いだから琢磨を迎えに来て、
そして一杯抱き締めてあげて!
『奈都ちゃん自分の家だと思って過ごしていいからね。
あ、そうだ、息子の遠矢紹介しするね。
遠矢高校行ってないのよ。
学校で色々あってね。学校へ行けなくなっちゃって、
奈都ちゃんとなら遠矢うまく話せそうな気がするのよ。
良かったら奈都ちゃん遠矢の友達になってやって。』
遠矢君ってどんなに子なんだろう。
なんか会う前からドキドキした。
愛子先生に連れられ私の前に現れた遠矢君は、
それはビックリするくらいなイケメンだった。
たけど遠矢君は私と視線を合わせない。
『奈都ちゃん遠矢は目が見えないのよ。
遠矢は生まれた時から見えないから、
感覚で家の中も平気で歩けるのよ。
外出も一人で平気だったんたけど、
今は無理かな。』
「遠矢君私奈都、よろしくね。
私の隣にいるのが、私の子供の琢磨だよ。』
琢磨が小さな手を出すと、遠矢君が、『よろしくね。』と琢磨の手を握った。
『琢磨君は甘えん坊だね。ママから離れないんだ。
琢磨君僕と遊ばないか?』
目が見えないのに何をして遊ぶのだろう?
私は心配でならなかった。
遠矢君は一冊の絵本を持って来た。
そして椅子に座り、琢磨を膝の上にのせ、
その絵本、【がちょうのたまごのぼうけん 】を読み出した。
目が見えないなんて思えない、
絵本を遠矢君は読んでいる。
又その声が優しくて、私まで絵本の世界に引きずり困れた。
琢磨もがちょうのたまごのぼうけんお話を静かに聞いている。
こんな琢磨を初めて見た。
愛子さんが、がちょうのたまごのぼうけんは、
私が点字で遠矢に読ませたの。
いつの間にか暗記しちゃったみたいでね。
絵本を読んだ後は琢磨と折紙をやりだした。
琢磨はまだ何も出来ないけど、遠矢君がトンボやカブトムシ、カエルなど一杯折るのを楽しそうに見ている。
これが又凄い。
目が見えないなんて信じられない。
こんなに静かに遊ぶ琢磨を始めて見た。
折紙の後はダンボールで何かを作り出した。
琢磨が入れるお家を作っている。
愛子さんがジュースとお菓子を持って来てくれた。
大好きなジュースもお菓子にも無視して家作りに必死な二人。
『久しぶりに見たわね、遠矢の笑顔。
奈都ちゃんありがとう。』
「そんなぁ、お礼言わなきゃいけないのは私の方ですから、
突然親子で押し掛けてごめんなさい。」
『奈都ちゃんそんな事気にしないで、
私奈都ちゃんから電話貰って嬉しかったんだから。
いても遠矢と二人切りだからね。
夕食何にしようかなぁ?
今日は賑やかになるぞ。』
「先生病院の方は大丈夫なんですか? 」
『大丈夫よ。息子夫婦に任せてあるから。
奈都ちゃん夕食すき焼きにでもする?
おうどん入れれば、琢磨君も食べれるしね。』
琢磨が私を呼びに来た。琢磨に手を引かれ、
ダンボールの家に入った。
椅子とか机、ベットまで作ってあった。
ダンボールの椅子に座ると、琢磨が私にお菓子をくれた。
私の隣に遠矢さんが座る。
「遠矢君ありがとう。こんなに楽しそうにしてる琢磨始めて見たよ。
琢磨一杯我慢して可哀想なんだ。」
すると、『一杯我慢してるのは奈都ちゃんでしょ。
そんな顔してたら子供が可哀想だ。
お腹の赤ちゃんにも悪い影響与えるよ。
ママはいつも笑ってない駄目だな。』
遠矢君に頭をなぜられた。
その時一粒の涙が頬をつたる。
「奈都ちゃん泣きたい時は泣いていいんだよ。」
そんな事言わないでよぉ。
もう涙は止まらない。
『僕は目は見えないけど、みんなの心が見えるんだ。
琢磨君はパパが大好きたけど、今のパパは好きじゃない。
琢磨はお兄ちゃんだから、ママに甘えちゃ駄目って言うパパが嫌い。』
凄いどうしてそこまでわかるの?
『奈都ちゃんは、今までもずっとずっと色んな事我慢して来たでしょ。
我慢する事が当たり前と思ってる。
でもそれは違うよ。
我慢ばかりしても決していい事にはならない。
奈都ちゃんもっと甘えなよ。
まだ奈都ちゃんは15才なんだから、
奈都ちゃんは自分はもうママだから、誰にも甘えられないと思ってるでしょ。
ママだって甘えていいんだよ。
泣きたい時は声を出して泣いていいんだから。』
遠矢君が私の顔を自分の胸に押しあてた。
私が声を殺して泣くと、バカだなぁって笑った。
『僕はね、この家の本当の子供じゃないんだ。
赤ちゃんの時小林医院の前に捨てられてたんだよ。
でも母さんは俺を自分の子供として育ててくれたから、
母さんには感謝してる。
僕、盲学校でなく普通の高校へ通っていた。
たけど僕をかばって階段から落ちた子が大ケガをして、
目の見えない子は盲学校へ行くべきだとPTAにもう反対され、
結局自主退学って事になった。
たけどまだ盲学校へ行く気になれなくてね。
こうして家でブラブラしてるんだ。
母さんには悪いと思ってるよ。』
遠矢君の話しを聞いていたら、なんか自分が恥ずかしく思えた。
遠矢君の胸の音を聞きながら、遠矢君違う高校へ行けばいいよ。
きっと遠矢君の思いが届く学校があると思う。
諦めないで頑張って見ようよ。
『奈都ちゃんありがとう。俺諦めないで僕が行ける高校を探してみるよ。』
「遠矢君私が思った事が分かったの?」
『ああ、分かったよ。』
「凄いね。」
『奈都ちゃんこのまま帰らなくていいの?
琢哉さん必死になって、奈都ちゃん探しているよ。
琢磨に怒鳴って悪かったって凄く反省してると思う。』
「何でそんな事まで分かるの?」
『何でだろうね?自分でも分からない。』
遠矢君が嘘をついているとは思えない。
琢哉さん今頃どうしているかな?
駄目駄目、今度だけは絶対に許さないんだから。
『奈都ちゃんも中々頑固者だね。』
やだ、遠矢君私の心読まないでよ!