(それにしても本当に、将来なんて……考えたこと無かったな)


 目を瞑り、天を仰ぎながら清香が笑う。

 気ままに生きているようでいて、実は崇臣は、きちんと先のことまで考えながら働いていた。彼自身と、彼の大事な存在である東條のために。
 そしてそれは、清香に大きな気づきを与えてくれた。


(できれば私も、芹香のために働きたいけど)


 どうすれば――どんな形であればその願いを実現できるのか、残り少ないモラトリアムの中で考えていかねばならない。そう自覚できたことはとても大きい。

 それだけではない。

 一人では潰れてしまいそうな思考の渦に呑まれたとき、そこから救い上げてくれる存在――それが崇臣なのだと気づくことができた。


(ホント、何度目なんだろう。こいつに救われるの)


 そっと崇臣を見上げつつ、清香はきゅっと唇を引き結んだ。


(それなのに、私ときたら)


 清香は今日、シャツすら弁償させてもらえなかった。
 親の庇護下にある高校生と言えばそれまでだが、清香としてはそこで終わりにしたくない。


(……自分で働いた金じゃないからダメなわけよね)


 先ほどの崇臣の言葉を反芻しながら清香が唇を尖らせる。


(折よく今は夏休みだし)


 何か新しいことをはじめたり、将来のことを考えるにはピッタリな時期だ。その上で崇臣をアッと言わせられるならば、これ以上のことは無い。


「おまえ、何か企んでるだろう?」

「……別にぃ?」


 問いかけにそんな風に答えながら、清香がニヤリと笑う。
 小さな決意を胸に、清香は力強く次の一歩を踏み出したのだった。