……『死ね』…………!?
確かに簡単な短い文。
「あ……またメッセージ………………」
『ずる休み』
それから私はラインを閉じた。でも20分後にまた起動した。
『死ねってのは取り消すね。』
え……?
何……?
『私と友達になってよ。』
どうして……?
なんで……?
なんで急に……?
………………信じていいのかな……。
『今までのライン、ひどいことばっかり書いてごめん。怖かったよね……。』
なにこれ……チヒロちゃんなの……?
『あんなことかいたら、レイカちゃん、辛くなって自殺しちゃうかもしれないのに……ごめんなさい。』
文自体はとても温かい。でも、『自殺』って言葉が引っかかる。
『ひどいことばっかり言った私だけど、レイカちゃん、友達になってくれる?』
『勿論既読スルーはナシね?』
私は、思わず返信してしまった。
『うん!』
またメッセージが来た。
『返信してくれた。』
『私のお友達。』
『これからよろしくね?』
まだ意味がわからない。
『いっぱい遊んであげる……!』
あ……いつも以上……ゾクッとする……
『やっぱりレイカちゃん、あっさり信じた。』
『これからレイカちゃんは、私のオモチャ。』
『キモエロオタクのレイカちゃん、いっぱい遊んであげる!』
『遊んであげるって書いて、こう読むんだよ。』
『イジメテアゲル』
『死ねとか書いたけど、私、レイカちゃんが死んじゃったら困るよ~!』
『だって死んじゃったら痛めつけられないもん!』
『遊んであげるって言った私が約束破りになるもん!』
『イジメテアゲル』
『遊んであげるって書いてイジメテアゲルって読む事、勉強が出来ないレイカちゃんのために、教えてあげたんだよ?』
『だって、レイカちゃん、小学校5年生の2学期の漢字50問テストで、50点中6点しか取れなかったんでしょ?』
『ほかにも知ってるよ。』
『体育の時、六年生になっても、鉄棒の前回り出来なかったんでしょ?』
『小学4年生の算数テスト、100点中5点、三回も取ったんでしょ?』
『小学3年生の頃、筆箱落として取りに行ったら、先生にカンニングとか言われて怒られたでしょ?その後帰るまで廊下に立たされたんでしょ?』
『小学6年生の組体操で、小型ピラミッド、レイカちゃんのせいで崩れたんでしょ?小型だからみんな怪我はしなかったんでしょ。』
『小学校の修学旅行で、おねしょしたんでしょ?ホテルの人にばれて、学校が怒られたんでしょ。で、学校に戻って、校長先生に怒られたんでしょ!?』
『小学校の給食、1~6年までずっと、毎日、掃除の時間まで食べてたんでしょ?』
『小学校の卒業式で、卒業証書を取りに行くとき、レイカちゃんおしっこ漏らして泣いたんでしょ?』
その後のメッセージも読んでみたけど、全部……
小学校の事ばっかり……。
しかも、本当にあった、恥ずかしいことばっかり。
なんで知ってるの……?
私が今いるのは関東。
5歳からここにくるまでは、ずっと東北で暮らしてた。
なんで、チヒロちゃんが小学校のことなんか知ってるの……!?
怖い……
怖いよ……
だれでもいいから、助けて……
助けてよぉっ……!
ピピピピピピピピッ………………
また朝のアラーム……
あれから、時間はあっという間に過ぎた。
今は、金曜日の朝。
大丈夫。
今日学校に行けば、明日は土曜日だから………………
「行ってきます……」
「あ、レイカ行ってらっしゃい。
ああ……嫌だなぁ………………………………………………
それにしても……レイカちゃんはなんで私の小学生時代のことを知ってるんだろう………………
あ、そういえば……
今回もまた……既読スルーしちゃった…………!!
どうしよう……今度は何されるの……!?
そして、しばらく歩き、校門を通り、重く感じる教室のドアを開ける。
いやだなぁ……
ドスンッ。
誰かが私にぶつかった。
「レイカちゃんおいで~。」
チヒロちゃん……!
本当はチヒロちゃんなんかに着いていきたくないけど、着いていかなきゃ絶対怒られる。
「こっち、こっち……」
着いたのは体育館の裏。
「ね、レイカちゃん、私がなんでレイカちゃんの小学生時代を知っているのか、聞きたいでしょ。」
「は、はい……」
「この人がいるから、知ってるんだよ~!ほら、アキ、来て~!」
アキ……?
なんか聞き覚えのある……
あ!
名前、フルネームでわかる。
神野アキちゃん。
私の小学生時代のたった一人の親友……!
クラスが離れたのは、3、5年生。
親友はいたけど、グループを作るときはひとりぼっち。だってアキは人気者で、どんなときでも、ただ立ってるだけで人が寄ってくる。
私は、その人達にまぎれてまでアキ同じグループになろうとする度胸はない。
でも、アキは私に優しくしてくれた。
二人きりになったときは、とっても楽しかった。
周りの人達からみたら、休み時間はアキは別の友達に囲まれて一緒にいることができない。それだと友達には見えないから、私は『一人ぼっち』と見られてたけど、アキは私の心の支えだった。
そういえばアキって、小学校を卒業してすぐにこの辺に引っ越したんだよね。
……でも、アキはそんな恥ずかしいことばかり教える子じゃ……ない……はず……………………。
「1年C組、つまり私達B組の隣!、のアキちゃんでーす!レイカちゃん、面識あるんでしょぉ?」
「おー、レイカじゃん!おっひさ~w」
「ア………………キ……………………………………なの?」
アキは変わっていた。
髪の毛は金髪でぐるんぐるん。
『おっひさ~』なんて言葉あのアキには似合わない。
それに、アキが浮かべる笑みも少し邪悪な雰囲気で……。
語尾がギャルっぽく弾んでいる。
服装だって。女子は着けなきゃいけないリボンがない。
天使みたいな女の子だったのに。
神野アキって名前の通り、天使みたいに優しい神様。そんな子だったのに……。
小学校で心から笑えたのは、アキと一緒にいたときだけだったのに……。
今の状況は、『小学生時代の親友と感動の再開……!』ではなかった。その真逆。
裏切られたの、私……?
いや、まさか、そんなわけ……。
「そ、アタシが、チヒロにあんたの恥ずかしい小学生時代を教えたってワーケっ。」
「なんで……!」
その時、小学校の屋上で夕焼け空を見上げながらアキが言ってくれた言葉が脳内再生された。
『アタシとレイカは、親友っ!』
『親友』………………………………………………………………
『親友』………………………………………………………………
「っ、『親友』って、言ってくれたじゃんっ!」
私は泣きながらそう言った。
「ギャーハハハハハハ!!!!」
「アキっ……!?」
「レイカちゃん、信じてたんだ~!ちょろすぎ~!」
「ちょ~レイカ、ウケる~。あの時屋上で言った言葉なんて、嘘に決まってんじゃ~ん!!小学生の時レイカと一緒にいたのは、ひとりぼっちのレイカが面白かっただけなんだけど~!」
「そ……………………んな…………………………………………」
私はへなへなと崩れ落ちた。
「信じてたのに……」
「親友だって、思ってたのにぃ…………っ!」
「うわぁぁあぁぁあぁんっ!!」
「キャハハ、レイカちゃん泣いてる。」
「ウケる~。マジで信じてたとは思えなかった~。」
今冷静に考えてみると、わかる気がする。
だって、4年の遠足、グループ作りの時、アキは私に見向きもしなかった。
普通親友なら、優先して入れてくれるはず。
修学旅行の遊園地のペア決めも。
その時私の席はアキの斜め左前だった。
こんなに席が近ければ、いくら人気者のアキでも、私とペアになっても全くおかしくない。
しかも、私がアキに『アキ、ペア……』といいかけたら、アキは……
『モナコ~!ペア組も~!』って。
確かに、親友とは…………いえない………………。
今さら気づく私が、情けない。
今ここで泣いたって、どうにもならないのに…。
込み上げてくる、自己嫌悪の感情が。負の感情が。怒りの感情が。
「確かにさ、アタシだって1、2年の頃は、純粋に親友だと思ってたけどさー、中学年くらいで、あんたのことがウザくなってきてさ。なんでアタシはこんなウザくてダメダメな子と一緒にいるのかな?って。そのころからかな、影であんたの悪口言い出したのも。」
私の心が……
「3、5年は同クラじゃなかったけど、あんたの悪い噂なんか普通に生活してたら聞くよ?」
ナイフで刺されたかのように……
「ていうか卒業式!アタシ卒業証書受けとるのが始まる前からあんたの異変に気づいてたわ~だって、あんた、椅子カタカタさせて、めっちゃそわそわしてるし、股押さえてたしー!卒業証書もらいに行くには立たなきゃダメだから、漏らせ~、漏らせ~、って思ってたよ~まさかホントに漏らしてくれるなんてっ!
「キャハハハハ!!卒業式でお漏らしなんて、想像しただけでもウケる~!」
チヒロちゃんが口をはさむ。
「あ、レイカちゃん、本題に入るね。話がそれてたよ。」
「ほ、本題……?」
嫌な予感がする。
「だってーぇ、レイカちゃん、またまた既読スルー犯しちゃったじゃん~!」
っ……!!
「その罰を、アキちゃんがやりたいって!」
「ええっ……!?」
「ふふっ、レイカ、いつかあんたをいじめてやりたいって思ってたんだよねー。アタシ遠慮はしないから!」
「な、何をするの……!?」
「これ。」
アキの後ろには四本の水筒。そしてチヒロちゃんはカバンをいじってる。
「チヒロ!縛って!」
「え……や……」
私は体育館の壁に無理矢理くっつかされられ、腕と脚をガムテープで固定された。
「や、やめ……て…………うっ」
口にもガムテープを貼られた。
「大声出されちゃ困るから。ついでに唇にベタベタ~!」
唇を押される。粘着力のいいガムテープがよりくっつく。
キュッ、キュッ。
四本ある水筒のフタを、アキは開けていく。
「それじゃあ、いっくよー!チヒロ、こんなチャンスをくれてありがとーっ!」
ばっしゃーん!!
またまた、ばっしゃーん!!
これ……私……お茶かけられてる……
麦茶のにおいがプンプンしてくる。
「うわー!ヤバー!麦茶レイカ~!」
「ちょ~アキ~!レイカちゃんブラ透けてる~!上着脱がせておいてよかったぁ~!」
「ちょ……!」
「わ~!レイカのブラババァっぽい~!」
「キャハハハハ!!ウケる~!」
麦茶と涙が混じったものが、私のほっぺたから滴り落ちた。
耐えなきゃ……私……
キーン……コーン……カーン……コーン……
「あ、チャイムなったー。帰ろー。アキ、麦茶のレイカちゃーん」
チャイムが鳴って、よかった……
休み時間が終わって、よかった……
でも、チャイムが鳴ったのは、私を救ってくれたわけではなかった。
教室に入ると……
「!!」
クラスメイトが鼻をピクピクさせ、麦茶でびしょびしょになった私をガン見する。
「ねえなんか臭くない……?」
「お茶のにおい……」
「あの今井レイカってやつ何を……」
クラスメイトの冷たい視線が苦しかった。
転校して、高校生活のやり直しがしたい。
ていうか、赤ちゃんにもどって、人生やり直したい。
魔法使いになりたい。
魔法を使って、なんでも自分の思い通りになるようにしてみたい。
学校で、勉強でも、運動でも、友達でも、恋でも、トップに立ちたい。
魔法を使って、うざい人を嫌いな人を……
…………
その続きは出てこなかった。
答えはわかってるのに。
心の中でつぶやけなかった……
でも、数秒後、頭にまた出てきてしまった。
魔法を使って、うざい人や嫌いな人を……
コロシタイ……!
コロシタイ……!
コロシタイ……!
殺る気だけは十分あるよ……
ヤルキダケハジュウブン……!ジュウブン……!
その時、私の心で何か恐ろしい物が生まれた気がした。
その時から。イライラしてたまらなくなったのは。
学校が終わった。
私は、家のグラスや皿を割りまくってた。
ダメだってわかってるのに。
お母さんがパートから帰ってきたら、何て言われるか……。
なのに、我慢出来なかった。
ガッシャーン!!
学校が終わって、家に帰った。
今、家のグラスや皿を割りまくってる。
ダメだってわかってるのに。
お母さんがパートから帰ってきたら、何て言われるか……。
なのに、我慢出来なかった。
ガッシャーン!!
なぜか、こうしていると、気分が楽になる。
こうしていると、自分がなんだかゲームのラスボスの魔王みたいに、無敵になったような気がする。
ガッシャーン!!
あ……もうお皿、三枚しかない。
グラスはもう全部割っちゃった。
私はお皿とグラスの破片をほうきで集めた。
泣きながら。