廊下を歩いて図書室という程ではないけどそれなりに本が置いてある部屋に来た。
「たしかこの部屋にあったと思うけど……」
お母様は部屋に入るとすぐに奥の棚へ歩み寄っていった。
私はお母様の後ろを離れないように歩きながら誇りのかぶった床に置いてある本を眺めた。
奥の棚に着くとお母様はひとつひとつ本を指でなぞっていく。
それを私は見ていく。
「えぇっと……あったあった」
そして、古めかしい一つの本を取り出した

「神道……?」
私には読めない。せいぜい読めて神道の文字。
「神道習学詩。神道について書いてあるの。……でも、今のようなコンピュータがないから筆記だけどね。書き漏らしがあったりして書き足しがあるけど……一応見れそうね…」
パラパラと本をめくっていく。
「ここね……」
そこには神道の決まりのようなものがあった。

《神道家の習
一、十三になる者は呪術師の力を得るべし。だが、十五になるまで村に入ることを禁止する
一、鬼城、神道以外の人との関わりをできるだけ無くせ
一、神道の女性は働きに働き、男性は鬼城を守るべし
一、男児として生まれた者は鬼城の女児と結ばれし。なお、残ってしまった男児は一生鬼城に使える事そして、呪術に付き合うべし
一、十五になるまでの子を持つ者は村を離れ育てよ
一、上記を守れぬ者は村にいる事を許されぬ。追放、そして神道の名を捨てよ》

「これに基づいてのようね……彼も可哀想ね」
「うん……。あれ、じゃあ、お母様……」
「そうね。神道家の人よ。鬼城は神道の者としか結婚出来ないから……。でも、この決まりを守れない人は神道と同じように追放され、呪術師の力もなくなる。……今も昔も憲法とかあるじゃない?でも、村に行きさえすれば何も関係ない。だから、いとことか兄妹で子を生んでいたらしいし、今も習わしで無理ならそうやって繋いでいるわ……瑞葉はきっと亜沙飛君と……」
「え……」
「神道と鬼城は契約しているも同然だもの。少し習わしは同じよ。鬼城という文字が書いてあるこの本のことは……。昔は紙なんてもの存在もしていないし言葉で伝えていたから抜けているらしいかったけど、再び直したとも聞いたから村に行ってからじゃないとわからないなぁ……。ここの棚にある本は村に関係しているから見といても損は無いわね。十五になれば村に行くし……まあ、見ておきなさい」
「はーい」
「私は、お父さんの手伝いしてくるから、瑞葉は本読んでてもいいし、部屋にいてもいいし好きにしていて」
「はーい」
「扉は開けておくからねぇ」
と、告げお父様の部屋へ向かって行った。
「さあてと…読みますか……。にしても、沢山あるなぁ……。ん?この本は…?」
と、手にしたのは鬼呪神城の神について。そして、村の教についてだ。

【目次
一、鬼城と神道の関係
一、鬼呪神城の教徒について
一、鬼神教の祀る神
一、                】

「なにこれ……最後の奴だけ黒く塗りつぶされてるし……全然読めない……。二つ目からかなぁ…関係はなんとなく聞いたばっかだし……」
と、パラパラとめくり教徒についてのページを見つけた。
「これか…。えっとぉ、なになに……」

【鬼呪神城の教徒・神

鬼呪神城村には一つの教徒が存在する。
そして、村にいる者全てその教徒である。
鬼城家と神道家の名をとり、鬼神教と名付けられた。
鬼神教は呪いを使う為に神を祀る。


鬼神教の神

鬼神教の神の名は『鬼神 実里誇(きしん みのりこ)』。
名前の通り女性の神。
女児の姿をする。
実里誇は実際存在していた人物であり、元々村の長を幼い頃から受け持っていた。その中で未来の為に自分自らを売った。
本来の名は
『鬼城 実里誇(きじょう みのりこ)』呪術師最大の力を持つ子。
実里誇は未来を力でしり、自分自ら呪神となった。
神・実里誇と称した
この娘のおかげで未来、引き継がれる限り鬼城と神道の間で呪術師の血は流れ続ける。



タスケテ

タスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテ】

「っ!」
黒く塗りつぶされ目次の言葉がわからなかったページを見ると赤い文字でタスケテと書いていった。
「なにこれ……気持ち悪い……。でも、大体わかったかな……」
本を閉じ元あった場所に戻した後すぐに
「うふふふ……タスケテェ?……ミズハ?」
「ひっ!」
私の左肩には冷たく血の様な赤い左手が置いてあった。私は怖くて怖くて固まって動けなくなった……。
「ミ…ズハ……タスケ…テ。うひひ…アヒャァ……」
「狂ってる……」
冷たい右手が私の頬を触る。私のお腹の感覚がおかしくなる。何かが通ったかのように。
「ひゃあっ!」
私の目の前に全身真っ赤で髪が腰くらいまである女の子が両手を私の頬にあて、私を見て微笑んでいる。そして、私は驚き右手を大きく振る。でも少女の体に当たる感覚がなく、右手の甲が本棚に当たる。
「痛っ!」
「アヒャヒャヒャッ。イタイ?イタイノ?ワタシ…イタイ…イタイヨ……。ワタシ…ノ…ガ……イタイ」
「あなたは誰!?誰なの!教えてよ!!」
「……シハ……ノ…リコ。ミノリコ……。アヒャァ……」
「…実里誇!?なんで……」
「…」
赤い手は頬から離れ、赤い手は青白い手になった。
「瑞葉……」
「実里誇様…」
「瑞葉…今の私(わたくし)には時間がないわ。そして、この姿は神であった時の姿…」
「神であった?…じゃあ、今は!?」
「今は…心を乗っ取られた哀れな化け物よ……。でも、こうやって話せる時があるの……」
「…そうなんだ」
「それでも一時的だから……」
「うん。なら、早く!」
「今の私が伝えたい事…それは…この呪いを解いてほしいこと……」
「呪い…を?」
「ええ。化け物としての力は呪いのせい……。私が神になった時にかけられた…」
「え……。呪術師は裏切ったの!?」
「そうなのかもね……。その当時は呪術師の力が弱まっていて、変な病気も流行っていたし…。でも、神転生にはたくさんの呪術師の力が必要で、高度な技…高度な技を使うには何か犠牲になるかかけた者に何が起こるのよ……それが何故か私になった……。何故そうなったのかがわからない。呪術師達がそうしたのか…どうかも……。化け物となったのは呪い……いいえ、人々の負そのもの。負は呪いとは直接関係はないけれど、憎悪として高まればそれそうの呪いになるの……。人の憎悪が高まり、私を祀る場に人々は祈りに来た…。…私はそれを見捨てる事はできなかった。だから、私はその憎悪を受け取った……。私が自業自得の事をしてしまったのかも…ね。化け物は祀る場だけで留められなくなってきている…いずれ村にも……。だから、今は村にいないあなた達に助けて欲しいの!」
「あなた達……?」
「私は一人の人と話しているのではない…ニ人に話し掛けているわ。瑞葉…亜沙飛……。鬼城と神道の次を受け継ぐ者達…。…私はあなた達に委ねます……」
「ちょっ!」
「アヒャヒャヒャッ」
また、襲われた時の姿に戻ってしまった……
「コロス…コロシテヤル……呪ッテヤル……アヒャヒャヒャッ」
と、告げ消えていった。
「瑞葉!瑞葉!」
「お母様…?」
お母様が私の元に寄ってくる。
「怪我はないっ!?」
「うん。大丈夫だよ…」
「良かったわ…」
「うん」
「あの化け物は…実里誇様だったのね……」
「お母様…見た事があったの…?」
「ええ。子供の頃にね……。あの頃はあそこまで変わられてはいなかったのだけど……」
「そう…なんだ」
「とりあえずこの部屋から出ましょうか…お父さんにも話さないといけないわね……」
「うん」
と、言って部屋を出た。



「……そうか…」
「ええ……」
「瑞葉の誕生日まで一ヶ月か……」
今は二月。私の誕生日は着実に近かった事に気が付いた。
「もうそんなに…近かったのねぇ。今日は、二月の……」
「瑞葉、部屋に戻っていなさい。ちょっと父さんと母さんで話をするから」
「はい…」
私は席を立った。