貴方と出会って、
どれだけ悩んだんだろう、
どれだけ泣いたんだろう、
どれだけ笑ったんだろう、
どれだけ強くなれたんだろう。
ただ一つ、覚えていることは
貴方は私を愛し
私は貴方を愛したということだけだった。
青い空に響く蝉の声。
今年もこの季節がやってきた。
清々しい気持ちを胸に、愛は一人、古本を両手で抱えていた。
「あ''〜、せっかくの夏休みだっていうのになんで手伝いなんてしないといけないのよ。」
「お小遣いあげるんだからしっかり手伝いなさいっ!」
私の家は古本屋。
今までも夏休みになるとこき使われてきたけれど、受験生になってまでされるとは思っていなかった。
でも、今年は例年とは違う。
友達とたーっぷり遊ぶためにお小遣いもらうんだからっ。
そうなったら何がなんでもやりきってやる!
お小遣いをもらった時のことを想像し、早くも清々しい気持ちになっていた。
「あの、すみません」
「はぁーい」
そこにいたのはチェックのシャツにジーンズを履いた、いかにもオシャレってかんじのクラスメイトの森くんだった。
「あー、森くん、どうしたの??」
「北中さんって、ここでバイトしてるの?」
「違うよ〜、ここ私の実家でさ。」
「そっか、北中は偉いな〜。家の手伝いかぁ。」
森くんは背も高くて優しい。
恋をしたことのない愛にとっても、とてもいい人だと思う。
「ううん、そんなことないよ。で、どうしたの?」
「何か小説読みたくなっちゃって。何かオススメとかある?」
森くんって本好きなんだー!
って…、私ったら馬鹿だ。
古本屋の娘なのに、小説なんて滅多に読まない。
イコール、おすすめの本なんて無い。
悩んだ結果、友達の間で人気の恋愛小説をすすめた。
笑顔で買って帰った森くん。
よく考えると、女友達の間で人気な恋愛小説なんて、男の子が見て面白いのだろうか。
買ってくれたんだし、まぁいいかー!
森くんが帰ってから愛は退屈していた。
田舎だからなのか、人気がないからなのか、お客さんが一人も来ない。
そんな時はほんの手入れをして、とお母さんに言われたけど、もう一時間ほど同じことをしている。
『あー、こんなんで本当にお小遣いもらえるのかなぁ。この時間に遊んでいたいよぉ』
そんな事を思っていた時、蝉の声が一瞬静まった。
「すみません、本を売りたいのですが。」
「え、はい、いらっしゃいませ!」
突然、声をかけられたのにびっくりし、声が裏返る。
洗剤のCMでやってそうなくらい白いワンピースを着た肌も美白で、優しく微笑む女の人が現れた。
手には黒い表紙の本を一冊持っていた。
「こちらにお願いします。」
本の買い取りはお母さんに任せた。
『あの人、すっごい綺麗だったなあ。』
久しぶりにお客さんが来たからなのか、印象に残っていた。
そう思うと、どんな本を売ったのか気になった。
「ねぇ、お母さん、さっきの人何売ったの?」
「とても変わった本よ。作者も不明、題名もわからないの。」
「え、そんな本いくらで買ったの?!」
「だから、買えないって言ったら、」
「言ったら?!」
「処分してくださいって…」
愛に、その本を読みたいという興味がわいた。
今までで聞いたこともない、珍しい本だ。
「し、処分なんてしてないよね??私、その本読むっ!」
「いいけど、仕事してね。」
お母さんは無意識なのか、語尾を強調して本を渡してくれた。
持ってみると厚みはないが、意外とずっしりとしていた。
仕事をしろと言われても、どうせ一日中暇だということはわかっていた。
お母さんの目を盗んで本を読むつもりだったが、お客さんも来ないし、暑いという理由で、今日のお手伝いはもうしなくていいと言ってもらえた。
『んー、やっぱりクーラーって最高!』
部屋に戻って大きく息を吸い、クーラーの重要さに改めて気づいたあと、例の本を読むことにした。
『本当に題名も作者もわかんないんだ…』
ペラペラとページをめくると、愛はあることに気づいた。
『これ、本じゃない!!』
そこには何も記されていない真っ白な紙が束となっているだけと物だった。
『何それ〜、不思議な本だと思ったのに〜。』
期待とは裏腹な事に、愛は肩を落とした。
『これなら下で古本でも読んでいようかな。』
そう思い下に降りた。
すると母は、忙しそうに本の整理をしている。
母は私が降りてきたのに気づいたのか、パッと振り返った。
「あんたー、あの本もう飽きちゃったのー?」
「…まぁ、うん。」
「じゃあ、買い物行ってきて。今は愛とお母さんしかいないんだよ。」
『え''ーー!!』
と言いそうになったが、お小遣いのためだ、と思って口をふさいだ。
買い物バッグとお財布を渡され、近くのスーパーへ向かった。
朝、天気予報でもいっていたが、今日は真夏日で外では蝉の鳴き声が響いていた。
『この材料だと、今日はカレーかぁ。』
「あ、北中さん。おつかい?」
そこには森くんがいた。
今日はよく森くんに会うな〜。
「うん。今終わったところで。」
「そっかー、あのさ、話変わるんだけど、あの〜、その〜…」
『何、モジモジしてんだろ? 暑いから早く帰りたいんだけどなー』
ドッ
「うわあ!」
足元を見ると、白猫がぶつかったということがわかった。
その拍子に私が(勝手に)買ったアイスが落ちていた。
「北中さん、大丈夫!?」
「あ、うん。大丈夫。」
「あ、アイスが…」
森くんが私の足元を見て、口を開いている。
「え?」
私も続いて足元を見る。
すると、アイスが無いということに気づいた。
そそくさと走っていく白猫。
口元にはアイスのブルーパッケージに、赤い文字で『期間限定』と印刷してある部分がある。
「ちょっと!アイス! っ!」
私は、周りの目も気にせず全速力で走って白猫を追いかけた。
すぐに捕まると思ったが、変な細い道を通るので、走りにくい。
いつの間にか、神社のようなところに着いていた。
『こんな所、あったんだ……』
汗だくの私は、猫を追いかけるのをやめ、神秘のような場所と心をかよわせた。
とても不思議な感じ。
緑が生い茂っていて、空気が美味しい。
「なんだよ、お前。」
突然の声に、一瞬で鳥肌がたつ。
声の方を向くと、私と同い年くらいの朱と白の衣装のような衣服を着た男の子が立っていた。
足元には白猫。
「それ、あんたの猫?私のアイス返してよ。」
でも、この暑い中、アイスなんて溶けているかもしれない。
でも、ここまで来て帰るのも悔しいから意地でも返してもらう!
「は、早く!」
「おい、お前。」
私の話を無視し、どんどんと近づいてくる。
『え''、なんか怖い!』
「何持ってんだ?」
は?
何こいつ、また食べ物盗ろうとしてんの!?
でも、アイス以外に何も買ってないしー…。
「にんじんと、またねぎと…」
私は素直に買った材料を言い始めた。
もちろん、カレーの材料と思われるものばかりだ。
「その、ポケットの中、黑書があるんだろ!」
またもや私の話を無視するヤツ。
無理矢理、私のポケットの中に手を突っ込んだ。
「ぎゃー!ちょっと、何すんのよー!」
バシーンッ
私は驚き、思いっきりあいつの頬をビンタしてしまった。
その勢いで、彼はふらつく。
その手にはあの黒い本があった。
『…なんでこれが』
「ふーん。やっぱりな、」
彼はその本をジロジロと見て、ニヤリと笑った。
「ち、ちょっと!返しなさいよ!この泥棒猫!!」
この暑い中、早く帰りたい一心で言った。
あんまし遅くなると、お母さんに怒られるというのもある。
「はぁ?これは誰のでもねぇ。今持ってるのは俺。だから俺のモンなんだよ。」
「この暑い中、屁理屈ばっか言ってんじゃないわよ!そ、そのアイスあげるから、その本は返して!」
溶けたアイスなんてもうどうでもよかった。
今の私にとって大切なのは、あの本!
もともと私の古本屋が受取った物なんだし!
「図々しい女だな……」
ピキ………
私の堪忍袋の緒が切れた音だ。
「いいから…」
私は大きく息を吸った。
「返してよー!!」
その時だった。
彼が持っていた黒い本は、彼の手から逃げるように跳ね落ち、私の足元に落ちた。
とっさに私は、その本を拾う。
「……」
「じゃ…わたし帰るから。」
諦めたのか、何も言わない。
私は彼に背を向け、神社を出ようとした。
「おい、待てよ。」
そう言うと彼は私の手首を強く引き、私の顔に近づいた。
そしてジーっと私の目を見つめる。
『ち、ちょっと…、私何されるの!!?』
「優。」
彼はバッと近づけていた顔を後ろに向けた。
「なんだよ。光。」
突然現れた男の人の名前はヒカルというらしい。
あいつと同じ衣装のような衣服を着ていて、顔が小さくて超美少年だ。
「その女が持っている本は…」
「ああ、黑書だ。お前が狙おうったてそうにはいかねぇ。」
何だかすごい雰囲気に、私はおずおずと立ち尽くしてしまった。
「それは私が貰うっっ」
光は私に襲いかかろうとし、優はそれを止めた。
『え〜、もしかして私、喧嘩の原因つくっちゃったー??!』
「おい、おまえ!早くここから出ろ!! 早く!」
私は状況のわからないまま、全速力で走った。
「…ただいまぁ。」
「おかえりなさい。遅かったわね。」
お母さんは落ち着いた声で私を迎え、怒ったりなんかしなかった。
きっと、暑くてそんな気力が無いのだろう。
私は無言で買い物バッグを机の上に置くと、ドタドタと階段を駆け上った。
部屋に戻ると、大好きなクーラーもつけず、ベットに横たわった。
『今の、何だったんだろう。 優と光は、なんでこの本が欲しいんだろう。 二人の関係は?? 黑書って? この本の事? あの白猫は……』
今までの出来事が頭の中を駆け回る。
愛は、この本に不思議な胸騒ぎを覚えた。
ミャァオ
バッと窓を見ると、さっきの白猫がこの本を見つめていた。
まるでこの本を欲しいと言わんばかりな顔だ。
『ねぇ、白猫。この本は何?なんでこの本が欲しいの??』
心の中で白猫に問いかける。
目をじっと見つめた。
少しして、白猫は窓からいなくなった。
白猫はずっと、私から目をそらさなかった━
「おねーちゃーん!今日の最高気温昨日より5℃も上がってるー!」
「えー!まじ?? せっかくお手伝いが休みだからうろちょろしようと思ってたのにー!」
朝から悪い知らせだ。
小学校の夏休みに入ったばかりの弟の力によると、全国的に猛暑日で、今日はとっても死にそうに暑いらしい。
「わーいわーい!!」
「力、何ワクワクしてるの?」
「今日は、プール行くんだよ!絶対気持ちいいー!」
『ふ、まだ小学生だな。 力、いつかわかるよ。このだるさを。』
愛は、ウサギのように飛び跳ね、目をキラキラさせた力に、こんな冷めたことを思いながら、視線をおくった。
「わー!かわいい猫ちゃんでちゅね〜」
『………ん??』
奥から聞こえたお母さんの言葉に、昨日の事を思い出す。
愛はお母さんの声の方に駆けた。
『猫って、まさか……』
「愛、みてよー!雪みたいに白い猫。 この子は雪ちゃんね!」
案の定、昨日の白猫だ。
動物好きのお母さんは、この愛想のいい白猫が泥棒猫だとは思わないだろう。
勝手に名前まで付けている。
白猫は私を見つめると、ついて来いと言わんばかりにゆっくりと道に出た。
「お母さん、ちょっと出かけてくるね。」
私はかばんの中に黑書なる物を入れ、白猫についていった。
しばらく歩くとあの神社に着いた。
改めて歩くと、こんな所にあったのだ、と新鮮な気持ちになる。
神社の大きな木陰に、昨日と同じ服の優がしゃがんでいた。
「よう、女。黑書を持ってきたようだな。」
ず、図星だ…
「な、何でわかるのよ。それより、私にはちゃんと名前があるの、『女』なんて呼ばないで!』
昨日のことがあって、何となくムキになってしまう。
「俺は神社の息子だからな、黑書の気配なんてすぐわかる。 あと、お前の名前なんてどうでもいいわ、俺は黑書が欲しいだけなんでね』
そういうと、言い返す間もないうちに私に襲いかかった。
「ち、ちょっと待って!優、あんたがこの黑書が欲しいのは分かったから、だから……」
「…ん?」
「顔に近づくのはやめんかー!!」
パシーンッ
早くも優の扱い方が雑になってきたところで、何で黑書が欲しいのか聞く必要があった。
珍しい本だし、あげたくはないけど持っている必要もない。
でも聞かないと納得できない。
ふらつく優は、しゃがみこみ、だるそうに黑書について説明した。
「これは〜、持っておくことで、自分がもともと持っていた才能を引き出して、使うことができんだよ。」
「へー、この本にそんな力が…。って言っても、私、この本持って何にも変わったことない!」
「いかにも。お前、才能がねーんだよ。」
パシーンッ
今の一言で私は、黑書を自分で持っていこうと決めた。
結構前から思ってたけど、いちいち失礼すぎる!
女の子の扱い方ってものを知らないのよ!
まぁ、私も扱い方が雑になってきたけどね。
頬を赤くした優が、嫌味のように話を続けた。
「やっぱり、俺の勘違いだったか。全然ちげーよな。お前ほんとに女か?」
立ち上がった優は、意味のわからないことを言っている。
「何が??いみわかんないんですけどー」
「俺が嫌いな女に顔が似てたから…でも、全然ちげぇ。」
それは、まるで“昔好きだった女”と言っているように聞こえた。
なんとなく、目が切ないかんじに感じたのは、勘違いかな…。
ちょっとむかついたけど、怒る気にはなれない。
「その人、どんな人だったの…」
「………」
優は顔を背け、何かを見つめていた。
きっと、私がでしゃばって聞いちゃいけないんだ。
それは、優の背中がそう言っている。
いつか、教えてもらえばいいよね……。
「…ま、いいよ! とりあえず、黑書は私が持っとくから! じゃあね!」
もう、優には何も聞いてはいけないんだ。
帰ろうと背を向けようとした時だった。
「月、逃げろ!」
『え…、今、ルナって……』
優は私の目を見つめ、私とは違う誰かの名前を呼んだ。
きっと、私の事を呼んだつもりなんだろう。
頭でわかっていても、体はついていかなかった。
「……」
いつの間にか後ろには光がいた。
無言で黑書の入ったかばんを掴んでいる。
「やめろ!!」
優は私に駆け寄り、片腕で私を強く抱きしめた。
「これは俺の女なんだよ、手ぇ出すな。」
「勘違いするな。別にお前の女に興味があるわけではない。私は、黑書を手に入れようとしたまで。 優の女って言っても、今、叫んだのは違う女の名前なんだろう?その女の顔がそう言っている」
「…………うるっせぇ!お前には関係ないわ」
そう言うと、今度は私の手を握り全速力で駆けていった。
光は、黑書を狙っているんだ。
それにしても、あの言葉って……?
「お前、家どこだ。」
「へ?えーと、こっち!」
昼間、人通りの多い商店街。
こんな昼間に全速力で走ってる男女なんて、皆気になるよね。
誰かに見られたら勘違いされるかな。
…でも今は、そんな事気にならなかった。
家へ着くと、もう11時半だ。
礼儀知らずの優は、“おじゃまします”という言葉も知らないのかドタドタと家へ入っていった。
突然の事に、お母さんが戸惑っている。
「えーと、どなた?」
優はその言葉を無視し、2階へ向かった。
「友達!何でもいいから飲み物出して!」
「う、うん…」
やっぱり、お母さんは戸惑っている。
「優、お茶持ってきた。」
「おう」
優は早くも私の部屋でくつろいでいる。
お茶を持ってきたのも、何だか満更でもなさそうだ。
それはともかく、聞きたいことがいっぱいある。
「優さ、さっきから態度でかいけど、強いの?頭いいの?偉いの?」
「……お、俺は強いのからな!頭は別として!」
ふーん。強いんだ。
確かに勉強はできなさそうね……。
運動バカって感じ!!
顔にかいてあるもん。
『運動バカです。』って。
「あのさー、光って一体何なの?」
「見てわかんなかったか?…一応、俺の兄貴だ。」
はー!確かに喧嘩っ早いところが似てたなー。
てか、一応って、どんだけ仲悪いのよ。
心の中でツッコミを入れつつ、気になっていたことを聞こうと思う。
「じゃあ、月って?」
なんとなく見当はついていた。
でもちゃんと、優の口から聞きたかった。
「……あぁ、それは、俺の嫌いな奴で、もう…会えねぇんだ。」
やっぱり、見当は当たっていた。
でも…あまりにも衝撃的な言葉に、声が出なかった。
どういうことなの?
聞いちゃいけないような気もする。
でも、一度聞いてしまうと、追求したくなってしまう。私の悪いクセ……。
「……な、なんで……」
「嫌いだからに決まってんだろ!…」
「……」
優は平然としているが、きっと、理由があるはず。
私、酷いこと聞いちゃったかな…。
きっと今も、想っているんでしょう?
じゃないと、そんな悲しい目にならないよ。
初めて優と会ったときは、最悪な男だと思ったけど、きっと今も辛いんだと分かった。
「…私!私の名前は愛!」
「愛…か。どうでもいいわ。」
話題を変えようとして教えた名前。
反応はイマイチだったけど、優らしい。
一回でも呼んでもらえたことが、なんとなく嬉しかった。
「愛ー!お昼ご飯できたわよー!その男の子も食べてったらー??」
「はーい」
「優も食べてく?」
優は目をキラキラさせてうなづいた。
とりあえず、優の事が少しでも分かったことが、なんとなく嬉しい。
「ごちそーさまでしたっ!」
昼食を食べ終わった優は、満足そうに手を合わせた。
「優、あんたご飯3杯はおかわりしたでしょ?」
「いや、5杯はした」
自慢気に言うが、お母さんは今日の夕飯のご飯がなくなったと困っている。
優が大食いだとは知らず……。お母さん、ごめん!
もちろん、優はそれには気づかない。
これが普通だ! とでも言いたそうな顔に、さっきとは違い、なんだかムカツク。
「じゃあ、俺、そろそろ行く。」
「うん。そこまで送るよ。」
「おう。」
送る、と言ったのには理由があった。
今日の一日で、一番気になった事を聞こうと思ったのだ。
「じゃあ、黑書は誰にも渡すなよ。」
「うん。ち、ちょっと待って。聞きたいんだけど、」
私は、胸を抑え、優にバレないように深呼吸した。
「私って、いつから優の女になったの??」
「へ!?!」
そう、ずっと気になっていた。
優が光に言った言葉。
『これは俺の女なんだよ、手ぇ出すな。』
こんな事を言われたのは初めてで、なんとなくドキッとしてしまっていたのだ。
少しの沈黙に、何だかモジモジしてしまう。
「……」
優は何も言わず、眉を細めている。
『まさか、忘れたの!!?』
『俺、そんな恥ずかしい事いつ言ったんだ……』
二人の高鳴る胸の音が、共鳴するように響いたー
いつ頃のことだろう。
すごく小さい頃の事。
変な夢を見た。
暗い私の部屋に、誰かの声が響くの。
助けて、助けて……。
そうすると、誰かが言うの。
俺が助ける。でも、もう無理なんだって。
子供ながらにとても嫌な夢と理解して、寝るのが嫌になった事もある。
久しぶりに、その夢を見てしまった。
その夢のせいなのか、今日は朝食をあまり食べることができず、今、とーってもお腹が空いている。
もうすぐお昼だというのに、我慢できないくらいお腹が鳴る。
ついでに、今はまでにないくらいに忙しい。
「この調子じゃお昼食べられないかもしれないわね。」
はい、タイムリー!
この暑い中、本当についていない…。
今日の朝食は、珍しく豪華なフルーツにパンに……。
思い出すだけでお腹が鳴る。
やっぱり、食べておけばよかった…。
「やっほー!北中さん!」
なんでこんな時に来るんだ!と内心思う。
今日も雑誌に乗っていそうなオシャレってかんじの服だ。
「いらっしゃい、ちょっと今日は忙しいんだよね…。」
「そっか、なら手伝おうか?」
「うそー!いいの?ほんとにいいの?」
森くんは笑顔でうなづいた。
やっぱ、来てくれてありがとー!
って、自分でも心情変わりすぎって思う。
「お疲れ様ー! そろそろお昼つくろうか!」
お母さんのその言葉を、どのくらい待っただろう。
森くんのおかげで仕事もはかどった。
二人はやりきった達成感で、爽やかな笑顔になった。
「二人とも、片付けしたら用意してあげるから、よろしくね、」
「ありがとうございまーす!」
お母さんはキッチンへ向かった。
二人は急いで片付けた。
「うーん!お母さん特製クリームパスタ、最高に美味しい!!」
「はい!とっても美味しいです!」
「あは、嬉しいわ!でも、おかわりはないからね!」
お母さんは昨日のことがあってきっとビクビクしているのだ。
森くんの頭の上にはハテナが浮かんでいる。
私はとっさに訂正した。
「お義母さん、ごちそうさまでした!」
「森くんもありがとね」
「じゃあ…」
森くんは(おかわりはせず)全ての料理を美味しいといって平らげてくれた。
お母さんもとても機嫌がよくなったし。
森くん、ありがとう!
森くんは爽やかな笑顔で去って行った。
空を見上げると、水色の空にうっすらと白い月が浮かんでいた。
『満月だぁ………』
『今日は満月か…。月と俺が会わなくなったときも…』
俺は、神社で朔を抱えて木陰に座り込んだ。
ミャァオ
朔が不思議そうに俺の顔に覗きこんだ。
今日は愛とあわないといけない。
そう思った時、風が青々とした葉を騒がせたー。
「綺麗な満月だなぁ。」
愛は窓に頬杖をつき、黒い空にくっきりと映る満月を見つめていた。
ミャァオ
スポットライトに当てられた白猫が私を呼んでいる。
私はスクッと立ち上がり、外に降りた。
二度しか行ったことのない神社までの道が、白猫を追わなくてもなんとなくわかる。
なんだか導かれているみたいだ。
「よぉ。」
「どうしたの?」
月光に照らされた優の顔が、なんとなく綺麗に見えた。
だって真面目な顔してるんだもん。
「今日は愛に紹介してぇ奴がいるんだ。」
優が私に紹介したい人?
どんな人だろう。
ていうか、優に知りあいなんているんだ……。
「愛、なんか言いたそうな顔してっけど…」
「何でもない!何でもないよ」
『やっぱり、優は感が鋭い。そういう意味では、なんかすごいかも。』
そんな事を思っているうちに、奥から人影が目に映る。
本殿の奥から白装束のようなものを着たおばあさんが現れた。
「雫のばーちゃん、巫女だ。」
『巫女?!!!!』
愛にとっては初めて見る巫女だ。
「驚いているようだな。私は巫女の雫という。 聞いた話によると、黑書を持ちながら才能が無い、とか。」
「愛、本殿に来い。」
優、私の事あんなに馬鹿にしてたくせに、なんで巫女の雫さんに話したの?
私、今から雫さんになに聞かれるの?
また喧嘩なんて始まらないよね??
私は、状況がのみこめないまま、優についていった。
静まりかえった本殿の中、月の光が壁の隙間から差す。
「本当に、何も変わったことはないのか。」
「は、はい。」
雫さんは眉間にシワをよせ、私をじっと見つめた。
「今日は満月。いつでもいい。今日一日で見たもの、感じたことはないのか?」
「思い出してみろ。朝から、今までで何か……」
私の隣に座っていた優が、私に問いかける。
言われたとおり、朝からのことを順に追った。
そういえば……
「っっ!……いや、変わった事じゃないかもしれないけど。朝、夢を見たの。」
「夢………。」
そして朝みた夢を話した。
「おぬし、やはり……」
雫さんは何かを確信したように顔を上げた。
雫さんの目から伝わってくる。
私って、やっぱり……
「私、やっぱり才能が無いんですねっ!?」
「愛、やっぱりお前は無才能なんだなっ!!」
さらに優が追い打ちをかける
ガーン……
私って……、私って…、いったい……。
「違うわっ。おぬしら最後まで話を聞け。」
雫さんが呆れたように言った。
『ち、違うのね!? 私にはちゃんと才能があるのね!!?』
「雫さん!教えて!」
愛は目をキラキラさせて雫に問いかけた。
「愛、おぬしには……」
「思った人の過去や未来を視ることが出来る才能がある。」
えー!
すごい!!
私、すごい!
でも、なんで夢を言っただけでわかったの?
「それってつまり……」
優が口をひらいた。
「そうじゃ。月と…同じ才能なんじゃ」
えっ……。
「月って、優の知り合いの人だよね?
雫さん、才能が同じって、よくあるの??」
「いや、初めて聞く。 とても珍しいことじゃ。」
驚いた。
偶然なのかもしれない。
優の好きだった人と、同じ才能って……。
「優………………………」
優は、思い込んだ表情だ。
なんて声をかけたらいいのかわからず、心臓が高鳴る。
優、悩まないで?
「ぐ、きっと偶ぜ…」
「雫のばーちゃん、これって偶然じゃねぇんだよな?」
思いもしなかった優の一言に、言葉が出ない。
偶然じゃないの?
なんでそんなんわかるの?
わかんないよ、私、わからない。
教えて…、教えてよ、優……………。
「ああ。偶然ではない。」
「………」
雫さんの一言でそうなんだ、と確信した。
イマイチどういうことがわからない。
3人とも黙り込んでしまった。
私と月が同じ才能だから、なんだって言うの?
なんだか、悪いことをしたみたいに心がモヤモヤする。
「愛、よく聞け。黑書というのはな………」
雫さんはゆっくりとわかりやすいように、黑書がどういうものなのか説明してくれた。
話を聞いてモヤモヤは晴れたけれど、黑書がとても恐ろしい物に感じる。
雫さんの話によるとに黑書は、
『才能を引き出し、それをさらに凄い才能にする。』
そういうものだった。
でも、今まで黑書を持った人は才能を悪い事に使ってしまったり、自分の利益のために使ったりして、自ら身を滅ぼしてしまった。
でも唯一、自分の心を失わず誰かのために黑書を使ったのが━月だったんだ━
「でも、過去と未来を視ることで、誰を救うっていうの?」
「それは、自分自身で導きださなければいけないんじゃ。」
わからない。
私には荷が重いと思った。
「月は凄い才能の持ち主だった。だから愛、おぬしもきっと………」
どのくらい話したのだろう。
スマホを見ると、時刻は9時をまわっていた。
「私…そろそろ帰らなくちゃ。」
「優、送って行ってやれ。」
「おう……」
今日は満月。
なんとなく商店街が明るい。
優はいま、どんな顔をしているの??
あんなに強がりの優が黙ってる。
「優……」
「なぁ、愛。多分、これから色々大変だと思うんだ。 だから……、あんまし俺から離れんなよ………」
思いもよらなかった。
優が私にこんな優しい言葉をかけてくれるなんて。
でも、それは私にかけた言葉じゃない。
月にかけたかった言葉なんだよね。
わかってる。わかってるよ。
でも、とっても嬉しい。
「優?」
「あー?」
「優、私の名前、覚えててくれたんだね!」
私は、ニカッと笑った。
「ま…まあな。」
優は照れくさそうに鼻をかいた。
初めて二人で笑い合えて、私はとっても嬉しいよ。
するとどこかで、猫の鳴き声が聞こえた。
「朔…。」
「サクって、あの白猫??」
「ああ、今日は満月だから、その月光にでも当たってるんだろ。」
「ふーん。変わってるね。日光浴でもないのに。」
「あいつは新月に生まれた。だから成長が遅いんだよ。」
新月…。
朔の日だ……。
「植物だって、日光浴びねぇといけねーだろ?それと一緒で、月光に当たんねぇと、大きくなれないんだ、あいつは……。」
それぞれで、色々事情があるんだなー。
きっと、優も。
いつも強がっているだけ。
だから私が、貴方のこと、支えるよ。
きっと、何があっても。
前みたいなことは、もう繰り返さない。
愛だけは、絶対、俺が守ってみせる。
きっと、何があっても。
今日は夏休み一度の登校日。
お手伝いがない代わりに学校があるなんて。
お母さんったらこんな真夏日なのにバス代節約だーって言って……。
もう、最悪。
なーんていっても、バスで行くけどねっ。
私は親不孝者だ。
でも、暑いんだから仕方ないし、日焼けもしたくないし、汗もかきたくないし、(笑) ばれやしないんだから、いいってことよっ!
心の中で勝手に解決してしまうのは、私の昔からのクセだ。
バスの中は意外にも空いていて、席に座ることができた。
その席は、登校するときに必ず座る、私の特等席。
なんだか落ち着くんだ。
バスが出発して5秒も経たないうちに、バスは急に止まった。
バスが音を鳴らし、入り口が開いた。
「はっ……。間に合った。」
どこかの黒い学校の制服を着た背が高くて細い男子が入ってきた。
突然の事で、彼をジーっと見てしまい、目があった。
目をとっさに逸らしたが間に合わず…、彼は特等席の隣りに座った。
『えー、高校生かな? 私、先輩苦手なのに………。』
誤魔化すかのように窓の外を見る振りをした。
話しかけないで!何もありませんように!
心で祈ってみた。
「あの、怖がらないでくださいよ。」
釘を打たれたかのように身体全体に鳥肌が立つ。
祈りが足りなかったのか、もともと祈れたてなかったのか……。
空気が読めない、純粋な感じがなんとなく誰かさんに似ている…。
「ご、ごめんなさい。」
「気を使わないでください。中3の尋っていいます。」
突然、自己紹介をしてきた。
見た目とは違い、彼は私と同い年らしい。
私はてっきり、『高校一のヤンキーで、滅多に学校に行かないけど気分的に来た〜』みたいな人かと思っていた。
「なーんだ。怖い高校生かと思った。私は愛。よろしくね」
「よろしくおねがいします」
そんな会話をしているうちに、学校に着いた。
校長先生の眠たくなるような話は終わり、(若干、寝ていたため)早めに授業も終わった(ように感じた)。
あと、尋くんは転校生らしく、2学期の授業から受けるらしい。
「では、残りの夏休み、受験に向けてそれぞれで学習を頑張ってください。さようなら」
「「さよならー!!」」
先生の締めの言葉を合図に一斉に出て行くクラスメイト。
きっと受験のことなんて考えていないんだろう。
私だってその『受験のことなんて考えていない』人の一人だ。
『んー、高校どこにしようかなー。私の将来の夢って、何なんだろう。』
「愛さーん!なにボーッとしてるんですかー?」
後ろから話しかけてきたのは尋だった。
今日は転校受付するだけだからすぐ帰るって言ってたのに。
私が不思議そうな顔をしていたのか、なんでこの時間までいるのか教えてくれた。
「俺、今まで歩いて登下校してたから、バスとかイマイチわかんないんですよねー。友だちもいないし、愛に教えてもらえないかなーと思って。いいです?」
心の中で納得したので、もちろん大きくうなづいた。
バスの中では、前の学校の話とか転校した理由を教えてもらった。
特に驚いたのは100m走のタイム!
なんと、12秒66なんだって……
愛のタイムは……言えない言えない。
「だからバス、間に合ったんだ!」
「あんなん楽勝ですよ」
尋くんは得意気に話した。
「転校してきた理由って、捜し物を見つけるためー?みたいなこと言ってたけど。」
ちょっと、聞いちゃいけないような気がしていたが、話すうちに打ち解けて思っていたことが自然にでた。
「んー、愛さんは知らないと思うんですけど。本を探してるんです。」
「へぇ。好きな作者がいるんだー?芥川太郎とかー?」
作者といって頭に浮かんだのはテレビの毎週ブックコーナーとかで聞く人の名前。
実家が古本屋だっていうのにそれくらいしか知らない。
「うん。まぁそういうことです。俺の地元が好きな作者の地元って感じで。その本も、そこで出来たんです。」
なるほど!そ~いうことかぁ。
詳しく話を聞くと、その本は世界に一冊しかなくて、皆が欲しがっているらしい。
噂でこの街にあるって聞いてわざわざ引っ越してきた。
なんて執着心なんだろー!
私も、そんなに大切な本を見つけるのを手伝いたい!
「私の家、古本屋!」
「本当ですかっ!!?」
私は、笑顔でうなづいた。
バスを降り、私の家へ向かった。
いや、向かおうとしたというのが正しいだろう。
バス停に、ムスッとした表情の優がいた。
「…遅い。」
「え、優、何してんの!」
遅いと言われてもなぜ待たれているのかわからない。
「どうしたんですか? あなた、こんなムスッとした顔してると愛さんに嫌われますよ〜。」
突然、入ってきたのは尋くんだった。
「俺はもともとそーいう顔なんだい!お前こそ、勝手に愛の名前を呼ぶな。」
「はぁ、あなた愛さんの彼氏さんですか。でも、そんなにイライラしてると、愛さんに捨てられますよ。」
「誰がイライラさせとると思っとんじゃ!」
いつの間にか、二人の目頭から火花が出て、ぶつかっている。
アニメでよくある、喧嘩のシーンだ。
はぁ、私、前回も、その前も、喧嘩の原因になりすぎ……。
「はい、もういいから!優、用事はあとから聞かせて!尋くん、行こう!」
強引に二人を引き離し、優をおいて家へ向かった。
「俺、最初は変なヤンキーが愛さんにストーカーでもしてるのかと思いましたよー。」
私が尋くんへ思った第一印象と同じだ…。
というのは置いておいて、守ろうとしたなんて嬉しい。
口調も(誰かさんと違って)優しいし、私、なんで尋くんの事が怖かったんだろー?
今となっては笑える気がした。
「うーん、無いですねぇ。」
本を探して、約30分、尋くんが探している本は見つからない。
私は、ハッと思い出した。
「そういえばさ、題名は??」
題名が分かれば、もしかしたらお母さんが見つけてくれるかもしれない。
まぁ、世界に一つしかないから、わかんないんだけどね。
そう思ったのだった。
「うーん。それがね、題名が無いんですよねー。」
尋くんは悩みのように言った。
なんだか聞いたことのある話だ。
「それって、まさか黑書なんていわないよねー?」
口が滑ってしまった。
言わないほうが良かったかな?
優に言われたよね?
私、何言っちゃってんの!!
今さらかもしれないが、ガチガチの作り笑顔で微笑んだ。
「ハハ!よく知っていますね!」
と〜っても不気味な笑顔で尋くんは言う。
私は、ヤバいことを言ってしまったのだと悟った。
「なんで知ってるんですかねー?ハハ!」
「なんかー…、見た事あるかもってー…、思ったんですけどもー…、アハハハハ!」
不気味な笑顔と作り笑顔が向き合うと、こんなに冷や汗をかくのだと知った。
尋くんは何も言わず、不気味な笑顔で見つめてくる。
私は耐えられず、言ってはいけないと思いながらも言ってしまった。
「持ってるー??………から?です…。」
誤魔化しながら言ったが、まぁよく考えると尋くんはいい人だ。
きっと!大丈夫。
「愛さんの部屋どこです??」
なら早く言ってくださいよー、と言わんばかりの笑顔で黑書のある私の部屋に向かった。
私の部屋に男の人が入るなんて二人目だ。
どっちにしても強引な…。
そんな事を考えながら、お茶を持って部屋に向かった。
「お茶、持って来たー、」
「愛さん、ありがとうございます。」
ずっと探していた物が見つかったのに、落ち着いていられるなんて、尋くんはすごいと思う。
そう思いながらも、気になっていたことを聞くことにした。
「あのさ、黑書って誰が作ったの?」
さっき尋くんがバスで話してくれた。
自分の地元で作られた本って。
きっと、知っているはず。
「戦国時代、俺の地元はすごい貧乏で、米なんて食べていける時代じゃなかったんです。そんなとき、村の唯一の巫女が、亡くなったんです。」
戦国時代から続く本だなんて。
とても歴史があるんだなー。
尋くんは話を続けた。
「その巫女は、亡くなったときに、村の人々のことを考えたのか、自分の霊力をなんとか残そうとしたんです。その霊力がその当時はただの書物だった、黑書に納められました。」
尋くんはたんたんと話を続けた。
それを聞いた私は、黑書を持っている意味を、とても重く感じた。
「それで、村の人々はどうなったの?」
「とても充実した日々をおくっていました。でも、その亡くなった巫女の妹が、外村の豪族のお嫁に行くことになって。巫女が亡くなってから黑書の持ち主は、その妹でした。その時に黑書が外村に行ってしまって……」
それから能力が暴走していったのだと悟った。
私が持っている黑書には、巫女の念がこめられている。
そう考えると、身震いした。
「なるほど……。そんなことがあったんだ……」
話を終え、尋くんはきっと黑書を見たいと言うだろう。
優ならそれを許さない。
そう思い、話をそらそうとした。
「そういえばさ!敬語やめようよ?同い年なんだし!」
話をそらすと言いつつも、やっぱり気になっていた事に話題を変えた。
「え?いいんですか?」
「もちろんだよ!」
意外にすんなり話を聞いてくれる尋くん。
第一印象とは全然違う。
「ならさ、俺の女になれよ。愛…」
そう言うと、尋くんは私の肩をガッシリ掴んでベッドに押し倒してきた。
突然の命令口調に驚き、言葉が出ない。
「なにしてるの?尋くん??」
「………」
大変な事になってしまった。
助けて、誰か……
優の頭に浮かぶ。
「優!!!」
バッ
窓から入ってきたのは優だった。
とーっても怒っている。
「あ、彼氏さんですか。」
「あ、じゃねぇよ。お前、愛に何してんだ……」