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「げっ……今日、体育あるじゃん……」
休み時間。いつものメンツで空の机に集まっていると、波間があからさまに嫌な顔をした。
あれ、波間って体育好きそうなイメージなのに……。
「あ……そういえば、ダンスの授業だね……」
空が、困ったように笑った。
「ほんと最悪……なんでダンスなんか踊らないといけないの……」
「え、女子はダンスなの?」
「うん……授業2回分練習して、3回目で発表するんだって」
あははと笑っている空の隣で、波間が「体育といえばスポーツでしょ!」と叫んでいる。
「ダンスもスポーツの一種だろ」
波間の発言に異議があるのか、怒谷が声をあげた。
「そういえば、怒谷はダンス得意なんだよな?」
「……別に」
「ダンスが得意なんて、すごいね……!私、全然授業についていけなくて……」
「お、俺でよかったら、いつでも教えるから……!」
怒谷の、俺と空に対しての対応の差……。
ていうか、ダメだって……!
「そ、空、俺もダンスなら教えられるから……!」
俺だって多少踊れるし、スカイライトのライブでもいつも踊ってる。定期的にレッスンも受けてるから……教わるなら、怒谷じゃなくて俺を選んでほしい。
「ふたりとも、ありがとうっ……」
「ふっ、あんたらが教えるの?授業でやってるの、かわいい系ガールズアイドルグループのダンスだけど」
鼻で笑った波間に、冷や汗がにじんだ。
「えっ……」
そ、そういうダンスは、専門外かも……。
……いや、ちょっと待って。
それって、空が体育の授業で、アイドルのダンスを踊ってるってこと……?
「ねえ、その発表会って授業中?見にいけないの?」
「は?何見にこようとしてんの、気持ち悪い」
俺に辛辣な波間が、軽蔑の眼差しをむけてくる。
「俺も……空が踊ってるところ、見たい……」
「えっ……!」
「怒谷はダメ……!」
「あんたもダメに決まってるでしょ‼︎ていうか、普通の授業中だし無理だから」
やっぱり、無理か……。
「その日だけ、雨降って男子も体育館にならないかな……」
空が踊ってるところなんて、かわいいに決まってる……俺も見たかったな……。
「空、こんなやつと別れたほうがいいわよ。一刻も早く」
「えっ……」
波間……いつもすぐ別れたほうがいいっていうの、やめてくれないかな……はぁ……。
「恋人が踊ってる姿を見てみたいって思うのは、当然だろ」
俺の恋人発言を許さない波間と怒谷が、仇を見るような目で睨んできた。
「ご、ごめんね晴くん……へ、下手だから、恥ずかしい……」
「下手でもいい……!」
「気持ち悪い……」
「い、いつか、見せられるように頑張るっ……」
顔を真っ赤にしながら、恥ずかしそうにそう言ってくれた空。
俺の願いを叶えようとしてくれる空がかわいくて、幸せな気持ちになった。
今日の仕事を終わらせてお風呂から上がって、そろそろ寝ようと思ってベッドに横になった。
足が若干痛くて、明日は筋肉痛だな……と覚悟した。
今日の体育で、坂道をダッシュするヒルスプリントをひたすらさせられたせいだ……。
体育の先生が体力作りだとか言って、突発的に実施したみたいだけど……中学の体育でするメニューじゃないだろ……。
そういえば……女子はダンスだって言ってた……。
空が踊ってる姿、きっとかわいかっただろうな……。
そんなことを考えながら、俺は眠りについた。
ん……ここ、どこだ……?
突然目の前に、煌びやかなステージが見えた。
周りには、ペンライトを降っている大勢の観客たち。
……ここ、ライブ会場……?
よくみると、俺の手にもペンライトが握られている。
俺、誰のライブに来たんだっけ……?
わからなくて首をかしげた時、ステージにフリルがあしらわれた衣装を着たアイドルが現れた。
「みんなっ……今日は来てくれて、ありがとうっ……!」
え……そ、空⁉︎
どうして、アイドルになってるの……!
笑顔で手を振る空に、観客席から大きな歓声があがる。
「空ちゃーん!!」
「今日もかわいいよ〜!!」
「空ー!こっち見てー!!」
みんな、かわいい空に夢中になっていた。
「楽しんでくれると嬉しいです!」
「「「きゃぁー!!」」」
「「「おおおー!!」」」
女性ファンも男性ファンも、空に釘づけで、必死にペンライトを振っていた。
待って……いや、めちゃくちゃかわいい、かわいいけど、なんでこんなことにっ……。
踊って歌ってファンサをして、大忙しの空。
バチっと、ステージの上にいる空と目があった。
ふっと、天使のような笑顔で微笑んだ空に、息が止まる。
待って……ダメ、だって……。
そんなかわいい笑顔……こんな大勢に見せないで……。
空のかわいい笑顔は……俺が、独占したいのに……っ。
「空……!!」
俺はステージに上がって——空をさらってしまおうと思った。
「はっ……」
目が覚めると、見知った自分の部屋の天井があった。
勢いよく起き上がって、自分が眠ったことを思い出す。
ゆ、夢、か……。
そうだよな……空は漫画家で……アイドルじゃないはず……。
空がアイドルになるとか……すごい夢見たな……。
衣装も似合っていたし、空はアイドルになってもおかしくないくらい……ていうか芸能人って言われても驚かないくらいかわいいけど……アイドルになるのはやめてほしい。
空がアイドルになったら……不特定多数にあんなかわいい笑顔を見せるなんて……心配で毎日気が気じゃなくなる。
夢でよかった……。
ていうか、さすがにステージに上がって連れ去るのは、まずいよな……。
俺って、独占欲強いのかな……。
いや、あんなにかわいくて優しい恋人がいたら、誰だって独占したくなるはずだ。
念の為……明日会ったら、空にアイドルを目指すのはできればやめてほしいって、お願いしよう……。
ふと、空はステージに立つ俺を見て、どう思っているんだろうと考えた。
空も……嫉妬してくれたりするのかな……?
スカイライトのハレと、空の恋人の俺は別物だと思ってるけど……やきもちを焼いてくれているのだとしたら、それはそれで、すごく嬉しいかもしれない。
って、公私混同するな、俺っ……。
それにしても……アイドルの空、すごいかわいかったな……。
次の日、空に「アイドルを目指すのは控えてほしい」ってお願いして、すごく戸惑われたのは、また別の話——。
おしまい