『ウタイテ!』4周年企画キャンペーン限定 書き下ろしSS

俺だけのアイドル【side 晴】

「げっ……今日、体育あるじゃん……」

休み時間。いつものメンツで空の机に集まっていると、波間があからさまに嫌な顔をした。

あれ、波間って体育好きそうなイメージなのに……。

「あ……そういえば、ダンスの授業だね……」

空が、困ったように笑った。

「ほんと最悪……なんでダンスなんか踊らないといけないの……」

「え、女子はダンスなの?」

「うん……授業2回分練習して、3回目で発表するんだって」

あははと笑っている空の隣で、波間が「体育といえばスポーツでしょ!」と叫んでいる。

「ダンスもスポーツの一種だろ」

波間の発言に異議があるのか、怒谷が声をあげた。

「そういえば、怒谷はダンス得意なんだよな?」

「……別に」

「ダンスが得意なんて、すごいね……!私、全然授業についていけなくて……」

「お、俺でよかったら、いつでも教えるから……!」

怒谷の、俺と空に対しての対応の差……。

ていうか、ダメだって……!

「そ、空、俺もダンスなら教えられるから……!」

俺だって多少踊れるし、スカイライトのライブでもいつも踊ってる。定期的にレッスンも受けてるから……教わるなら、怒谷じゃなくて俺を選んでほしい。

「ふたりとも、ありがとうっ……」

「ふっ、あんたらが教えるの?授業でやってるの、かわいい系ガールズアイドルグループのダンスだけど」

鼻で笑った波間に、冷や汗がにじんだ。

「えっ……」

そ、そういうダンスは、専門外かも……。

……いや、ちょっと待って。

それって、空が体育の授業で、アイドルのダンスを踊ってるってこと……?

「ねえ、その発表会って授業中?見にいけないの?」

「は?何見にこようとしてんの、気持ち悪い」

俺に辛辣な波間が、軽蔑の眼差しをむけてくる。

「俺も……空が踊ってるところ、見たい……」

「えっ……!」

「怒谷はダメ……!」

「あんたもダメに決まってるでしょ‼︎ていうか、普通の授業中だし無理だから」

やっぱり、無理か……。

「その日だけ、雨降って男子も体育館にならないかな……」

空が踊ってるところなんて、かわいいに決まってる……俺も見たかったな……。

「空、こんなやつと別れたほうがいいわよ。一刻も早く」

「えっ……」

波間……いつもすぐ別れたほうがいいっていうの、やめてくれないかな……はぁ……。

「恋人が踊ってる姿を見てみたいって思うのは、当然だろ」

俺の恋人発言を許さない波間と怒谷が、仇を見るような目で睨んできた。

「ご、ごめんね晴くん……へ、下手だから、恥ずかしい……」

「下手でもいい……!」

「気持ち悪い……」

「い、いつか、見せられるように頑張るっ……」

顔を真っ赤にしながら、恥ずかしそうにそう言ってくれた空。

俺の願いを叶えようとしてくれる空がかわいくて、幸せな気持ちになった。


今日の仕事を終わらせてお風呂から上がって、そろそろ寝ようと思ってベッドに横になった。

足が若干痛くて、明日は筋肉痛だな……と覚悟した。

今日の体育で、坂道をダッシュするヒルスプリントをひたすらさせられたせいだ……。

体育の先生が体力作りだとか言って、突発的に実施したみたいだけど……中学の体育でするメニューじゃないだろ……。

そういえば……女子はダンスだって言ってた……。

空が踊ってる姿、きっとかわいかっただろうな……。

そんなことを考えながら、俺は眠りについた。

ん……ここ、どこだ……?

突然目の前に、煌びやかなステージが見えた。

周りには、ペンライトを降っている大勢の観客たち。

……ここ、ライブ会場……?

よくみると、俺の手にもペンライトが握られている。

俺、誰のライブに来たんだっけ……?

わからなくて首をかしげた時、ステージにフリルがあしらわれた衣装を着たアイドルが現れた。

「みんなっ……今日は来てくれて、ありがとうっ……!」

え……そ、空⁉︎

どうして、アイドルになってるの……!

笑顔で手を振る空に、観客席から大きな歓声があがる。

「空ちゃーん!!」

「今日もかわいいよ〜!!」

「空ー!こっち見てー!!」

みんな、かわいい空に夢中になっていた。

「楽しんでくれると嬉しいです!」

「「「きゃぁー!!」」」

「「「おおおー!!」」」

女性ファンも男性ファンも、空に釘づけで、必死にペンライトを振っていた。

待って……いや、めちゃくちゃかわいい、かわいいけど、なんでこんなことにっ……。

踊って歌ってファンサをして、大忙しの空。

バチっと、ステージの上にいる空と目があった。

ふっと、天使のような笑顔で微笑んだ空に、息が止まる。

待って……ダメ、だって……。

そんなかわいい笑顔……こんな大勢に見せないで……。

空のかわいい笑顔は……俺が、独占したいのに……っ。

「空……!!」

俺はステージに上がって——空をさらってしまおうと思った。


「はっ……」

目が覚めると、見知った自分の部屋の天井があった。

勢いよく起き上がって、自分が眠ったことを思い出す。

ゆ、夢、か……。

そうだよな……空は漫画家で……アイドルじゃないはず……。

空がアイドルになるとか……すごい夢見たな……。

衣装も似合っていたし、空はアイドルになってもおかしくないくらい……ていうか芸能人って言われても驚かないくらいかわいいけど……アイドルになるのはやめてほしい。

空がアイドルになったら……不特定多数にあんなかわいい笑顔を見せるなんて……心配で毎日気が気じゃなくなる。

夢でよかった……。

ていうか、さすがにステージに上がって連れ去るのは、まずいよな……。

俺って、独占欲強いのかな……。

いや、あんなにかわいくて優しい恋人がいたら、誰だって独占したくなるはずだ。

念の為……明日会ったら、空にアイドルを目指すのはできればやめてほしいって、お願いしよう……。

ふと、空はステージに立つ俺を見て、どう思っているんだろうと考えた。

空も……嫉妬してくれたりするのかな……?

スカイライトのハレと、空の恋人の俺は別物だと思ってるけど……やきもちを焼いてくれているのだとしたら、それはそれで、すごく嬉しいかもしれない。

って、公私混同するな、俺っ……。

それにしても……アイドルの空、すごいかわいかったな……。

次の日、空に「アイドルを目指すのは控えてほしい」ってお願いして、すごく戸惑われたのは、また別の話——。


おしまい

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